移住者インタビュー

Vol.36 / 2018.03.07

丹波市の未来を一歩先で開拓し続ける、株式会社みんなの家代表

井口元さん

2017年・2018年に引き続き、丹波市が実施している「お試しテレワーク」企画で来丹された、東京在住のライターFujico氏。普段、東京に住んでいる方にとって、丹波市の人たちの暮らしはどんな風に映るのか。
この記事は、彼女が丹波市での滞在期間中に出会い、交流された方へのインタビューをまとめたものです。
丹波市に興味がある方はもちろんのこと、丹波市に住む方々も楽しみに見ていただければと思います。

人生、どんな瞬間に転換期がやって来るかはわからない。今日はこの都会の中心にいても、一年後には地球の裏側に行くことだって、ないとは言い切れない。

 

 

今回インタビューをさせて頂いたのは、丹波市にIターンでやってきた井口元さん。井口さんは、丹波市の移住窓口相談業務の委託を受けている、株式会社みんなの家の代表。創業わずか1年半で、市からの委託を請け負ったやり手である。その他、丹波市内でIターン専用のシェアハウスの運営を始めとし、地域課題解決を行う事業を行なっている。今や丹波で大活躍の井口さんは、もともとIターンの一人。ひょんな出来事がきっかけで移住をした、元バリバリ営業マンだ。家族も親戚も都会にいて、なぜ地方への移住を望んだのか、丹波で会社を立ち上げ、何をしているのか、掘り下げて行こうと思う。

 

 

都会暮らしだと、何かが起こった時に生き抜く力が弱いと感じた

 

大阪生まれ大阪育ちの井口さん。家族も親戚も都会住まいで、地方に縁もゆかりもなかった。大学を卒業し、医療関連専門のウェブサイト制作会社に入社。「医療もITも興味がなかった」と言いつつ、相当の成績を残すやり手のセールスマンだった。そんな都会で大活躍をしていた営業マンが、なぜ地方への移住を望んだのか。

 

 

家族にも親戚にも田舎を持つものはいません。もし、お金で食べ物が買えなくなった時、例えば震災などの時に、都会に住んでいるというのはデメリットだと学生の頃からなんとなく感じました。ITバブルの崩壊やリーマンショック、東北の震災があるなど、いつ何時何が起こるかわからないので、食べ物と水に関して困らない環境を手に入れたいとずっと感じていました。

 

 

お金がなくなっても、もしくはお金そのものの価値がなくなっても、生きていくのに困らない”安定感”は、都会では見出せないと感じたという。そんな思いをずっと、頭の片隅に置いていた。

 

 

 

 

 

都会でのキャリアをすべて捨て、丹波へ

 

 

 

「社会勉強できる環境で働きたい」と思い選んだのは、IT業界での営業職。さらに配属場所は、医療業界向けのウェブサイトや広告物を制作する部署だったため、全てが知識ゼロからスタートした。業績をぐんぐんと上げ、会社がより働きやすい環境になるようにと整備などを行い、6年という月日が経った。そこでまたふとあの思いが蘇ったのだ。「このまま働いてお金を手に入れても、本当の安泰は得られないのではないか」と。

 

さらにちょうどその頃、営業というキャリアを積み上げることにも疑問を持ち始めた。

 

営業は自分にとって天職だとは思います。ただ単に気持ちよく話しているだけのような感覚でしたから。しかし、基本的に営業は話すスキルであり、このままこのキャリアを積むというところに魅力を感じませんでした。

 

経験も実績も積み上げ、30歳という節目に6年間勤めた会社を退職。転職先など、退職後のプランはあえて作らずに会社を辞めたという。

 

 

会社を退職してすぐ、知り合った当時の市議会議員候補に出会い、選挙を手伝って欲しいと言われました。その人は丹波市にIターンをした一人。直感的に面白そうだと思い、丹波に行って選挙の手伝いをしたのが、丹波市との繋がりの始まりです。

 

 

丹波市との最初の出会いが「選挙」というのは驚きだった。都会での選挙というと、盛り上がっているのかいないのか、いまいちわかりにくいイメージだが、丹波市は違う。多くの人が候補者を応援し、まるでお祭りのようだ、と井口さんはいう。嬉しいことにその市議会議員は当選し、ふと、今後この人たちと関わると面白いなと思ったそうだ。

 

 

そう思っていた矢先、その市議会議員を一緒に応援していた一人・前川さんから「丹波市の地域課題を解決する事業を一緒にやらないか」と誘われた。地域課題を解決する事業とは?とテーマが壮大で抽象的でありつつも、またもや直感で「面白い」と感じ、移住をすることに。こうして、偶然が偶然を呼び、丹波移住が決まっていった。

 

 

 

 

 

丹波市の地域課題を解決する、株式会社みんなの家

 

 

井口さんは晴れて丹波市に移住することが決まり、前川さんの紹介で広めの物件を借りることができた。しかしかなりスペースが広いので、1人で住むには十分すぎる。そこで地域課題の第一歩として、Iターンを受け入れるためのシェアハウスとして運営させればいいのではと言う話に。「Iターンしやすい環境を作り、人口を増やす」という地域課題への取り組みが始まったのだ。そのシェアハウス事業を基盤とし、2013年9月に株式会社みんなの家を設立。井口さんが代表者となった。基本シェアハウスとして運営しながらも、丹波に遊びに来たり、移住に興味があり訪れたりする人を受け入れられるように、ゲストハウスやイベントスペースとしての機能も加わり、年間述べ1000人以上が出入りする規模へと成長させた。さらに「みんなの家」の影響力は他にも及び、丹波市内でシェアハウス事業が広まり、他の地域から人を入れやすい環境づくりが広がって行った。

 

 

 

 

 

 

丹波市に業績を認められ、市の相談窓口を受託

 

 

みんなの家のシェアハウス事業が順調に進んだある時、丹波市が移住相談窓口の業務委託に関する公募を出したんです。

みんなの家は、今後の移住相談窓口は『移住者が運営する移住相談窓口』が良いのではないかと提案しました。移住者の気持ちは移住者にしかわからないことがあるんですね、要は移住者にしか絶対に言われないことがあるとか。都会とのギャップや丹波市での暮らしなどは、移住者だからこそ感じる部分。そこを強調し提案したところ、株式会社設立してからわずか1年半しか経っていなかった弊社に、丹波市が業務を委託してくれることになりました。

 

 

移住者が運営する移住者目線の移住相談窓口を提案したのは、「みんなの家」のみだったという。同じ立場で経験をしてきたからこそ、移住希望者の悩みに親身になって答えられるというところを、評価された。

 

 

 

また今までの移住相談窓口は、人数的制約もあってほぼ電話とメールで移住希望者の質問に答える業務のみを行なっていたが、「みんなの家」では外部へ積極的に、移住希望者に向けたイベントへ参加、主催。結果、委託を受けた最初の1年間で窓口への相談件数が3倍近く伸びた。初めの1年は井口さんともう1人男性二人で業務にあたっていたが、女性も相談をしやすいように、女性のスタッフを雇用したり、積極的に多くの人々が相談しやすい、興味を持ちやすい環境を作り上げた。

 

 

 

 

今後の取り組み、さらなる地域課題の解決

 

 

人口減少という地域課題に取り組み、成果を上げている井口さん。今後の目標を聞いてみた。

 

 

丹波市は元々、年間の転入者が1400人程いらっしゃるんですね。なのでほとんどの方が単純に“引っ越してきている”んです。“移住”とかではなく。他の地方自治体よりよほど恵まれている。なので今後もっと普通に引っ越してこられるように、現在稼働中の空き家バンクだけでなく、都市部の大手人材会社が提供しているような就職支援サイトのようにホームページ上の求人情報も充実させていく予定です。何年かかるかわかりませんが最終的には、地域の人が当たり前のようによそから人が引っ越してくるのを迎え入れていくようになり、こうした移住相談窓口がなくなってもうまくいく、というのが理想だと思っています。

 

 

丹波市に引っ越したいと思ってもらえるように、イベントなどに積極的に出つつ、引っ越したい人がスムーズに丹波に引っ越しできるように環境を整え、着々と受け入れ体制を作る、それが井口さんの狙い。さらなる地域課題の解決が楽しみである。

 

 

 

 

地方で暮らすということ

 

 

丹波市には単身で移住してきた井口さん。2016年の4月に奥さんと子どもを呼び、今は3人で暮らしている。

 

丹波はとても住みやすい環境です。今は自宅で畑を耕したりなどもしています。嫁は虫嫌いですが、頑張って一緒にやってくれます。

 

 

必要な分だけを自分たちで作る自給自足生活。学生の頃から思っていた「お金の価値がなくなっても安定する生活」を着々と作り上げている。

 

 

田舎暮らしは全然スローライフではありません。週に5日で仕事をして、週に1日はプライベートでも、もう1日は草刈りやお祭りの準備など村や地域に関わる用事が入ってくる。そういう意味では都会の方が週に2日ほぼ完全プライベートなので時間は取れるかもしれません。しかし、日頃感じるストレスは都会に比べて圧倒的に減りました。

 

 

ストレス社会と呼ばれる現代で、ストレスが減ったという井口さん。働く人々が、喉から手が出るほど欲しい環境ではないだろうか。そう思えば、井口さんはインタビュー中も終始笑顔だった。

 

 

自然と触れ合える環境や教育を求めて、移住する人も多くいますね。仕事やお金の面で移住を躊躇する人もいますが、私の場合は移住直後はそれまでの収入の半分程になりましたがむしろ貯蓄は都会よりも出来ています。支出も大幅に減りましたね、使うところありませんし笑

 

 

さまざまな不安もあると思うが、地域と繋がることや自然に触れ合うことに興味がある人は、きっと井口さんのように充実した生活が送れるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

移住を検討する人々へ

 

 

家族で地方に移住したいが悩んでいる人が多くいるはず。何かアドバイスがあるかと尋ねたところ、以下のコメントを頂いた。

 

家族間、特に夫婦で意見を合わせてくることを強くオススメします。片方が押し切って無理やり連れてきても、絶対にハッピーにはならない。身近な人を説得して、何度も連れてきてみたりしながら、焦らず移住に進んでください。

 

 

 

シリアスなコメントをしつつも、丹波暮らしは楽しい!と笑顔で話す井口さん。都会で積み上げた知識と経験を丹波で活かし、丹波市の明るい未来を開拓し続けている。前向きに、何より本人が楽しんで過ごしているからこそ、また周りに良い人が集まり、それが連鎖しているのだなと感じた。

丹波地域の移住者の中で活動されている人の間では、だいたいの人が知っている井口さん。(本人はあまり前に出たがらないですが)何か新しい事が起こっていると、その陰には井口さんがいてる事もしばしばです。たくさんの移住者と丹波市をマッチングしてきた経験から、田舎ぐらしはただスローライフを満喫できる場所ではないよと説得力を持って語ります。我々編集部のボスでもあります井口さんの周りには、いつもたくさんの人たちが関わっています。ご家族とも一緒に今後も移住者のフロンティアとして、色んな仕掛けを丹波で創っていく様子に目が離せなさそうです。