たんばの仕事

Vol.96 / 2021.08.12

心が原点、石屋から総合工事業への挑戦

株式会社北山石材

業種
  • 製造業

丹波市の東部にある春日地域。ここに創業97年の老舗石屋があります。時代の流れに沿うために、今まさに企業の形を変えていく挑戦をされている株式会社北山石材を取材してきました。

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◆石屋の心を原点に、総合工事業への転換

◆ピンチをチャンスに変えた10年

◆「心を込めて」「人を大切に」次の10年へ

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今回は、北山登志紀代表取締役と、奥様の北山真由美さんにお話を伺ってきました。  

石屋の心を原点に、総合工事業への転換

まず、北山石材の事業内容を教えてください。

創業が大正13年、今年で創業97年目になります。広島生まれで大阪で修業した僕の曽祖父が創業し、僕で4代目になります。

長らく石工事、墓石の工事を手掛けて、会社の形態も個人事業として営んできました。平成6年に僕の父が会社を設立、法人化し、今期で28期目の決算を迎えます。

2013年、僕が39歳の時に父から事業継承し、今年で8年目になります。しかし、時代の波は厳しく、事業承継の当時から、これまでの石工事だけでは食べていくのが難しい業況にありました。

そこで、新たな事業として、一般住宅の外構工事と、公共の土木工事に取り組んでいます。事業内容として、石・住宅外構・土木の三本柱に、総合工事業として事業を営んでおります。


一般住宅の外構工事はなんとなくイメージできますが、土木工事というのはどういうことをされるんですか?

現在、お声掛けいただいているのは河川工事が多いですね。

例えば、崩落した河川護岸の復旧としてブロックを積んだり、鉄砲水を想定して、河川の氾濫を防ぐため、河岸に防破堤としてコンクリート擁壁を施工したりですね。工種は、かなり多岐に及びます。

ああ、もう本当に土木工事ですね。

そうです。公共工事には、土木施工管理技士という資格が必須なのですが、僕はもちろん、社員にも受験を推奨しています。

もちろん、今後入社される方にもどんどん勉強してもらい、資格は是非取っていただきたいと思っています。

素人な質問ですみません、その資格は、やはりみんなが持っていないと仕事上の不具合があるんですか?

公共工事を請ける場合、業務管理上、請負出来る工事が、有資格者1人に対して1物件となります。

だから、複数の有資格者がいることによって、複数の工事を同時進行できるというメリットがあり、資格を取るためにかなり勉強するので、もちろん知識も身に付きます。

また、国家資格なので、社会的な信用も付いてくるといった感じですね。

他にも、我々一般人にはあまり聞き慣れない資格がありますね。名刺に書かれている「1級石工技能士」というのはどういう資格ですか?

厚生労働省技能検定のひとつですね。様々な道具を使い、四角い原石から決められた形を成型し、一つの成果品を作ります。その技術が、例えば仏像であったり、灯篭であったり、石材の造形技術に派生していきます。

要は、「自然の石に、人の手を加えて形を作りましょう」という技能資格です。

なるほど、色々あるんですね!
ではこの、「お墓ディレクター」というのはどういうものなんでしょう?

先ほどの「石工技能士」は、技術的な資格ですが、こちらは知識的な資格ですね。例えば仏教の中でもたくさんの宗派がある中で、「この宗派には、こういう仏像や供養の仕方がありますよ」とアドバイスしていくような資格です。身内の方がお亡くなりになった時、「どういう形のお墓を、どのタイミングで作ったらいいのか」とか。石材の産地も全国各地にありますしね。

また、日本国内だけにとどまらず、世界各国にも産地があり、「この産地のこの石がいいですよ」とお勧めし、お墓を建てるお手伝いをする資格です。

つまり、技術面は石工技能士、知識的な供養のアドバイスがお墓ディレクターで、技術と知識両面から、お墓づくりの二本立て資格になっています。

  よくわかりました。事業承継された頃、石屋が非常に厳しい時代だったと伺いましたが、何が影響してたんでしょう?  

もっとも大きな要因と考えているのは「墓地整備が一巡し、新規需要が減り始め、全国的な建墓ブームが収束に向かっている」ことかなと。インターネットが普及して、供養の形態が一気に多様化しましたよね。永代供養や樹木葬、散骨等。

2000年あたりを境に墓石市場がかなり縮小し、石材業界には、ターニングポイントが到来しました。葬祭業に展開された事業者と、我々のように工事業に派生した事業者と。

  その時、北山石材としてはどういう判断で後者に進まれたんでしょう?

弊社の場合、創業以来受け継いで、研鑽してきた石屋の技術力をそのまま活かせる場は、葬祭業なのか?工事業なのか?と考えた時、やはり工事業に進むべきと判断しました。

石屋としての成長戦略は、磨いた技術力をお客様から望まれた形で発揮するのが一番だろうと。

確かに葬祭業は整えないといけない設備やノウハウが、石屋とは違う印象がありますね。

ピンチをチャンスに変えた10年

社長は若い頃から家業を継ぐことは意識されてたんですか?

僕は長男で生まれて、いつかこの事業は僕が受け継ぎたいとは思っていました。でも、大学時代までは若気の至りと言うか、考えがまとまってなくて、就職氷河期も重なり、かなり揺れ動いてましたね。

安定が一番だと、公務員試験を目指したり、いやいや起業して、一国一城の主になりたいと起業セミナーに参加してみたり。

結局、公務員試験に失敗し、もう一年、就職浪人するかどうか悩んでいる時、父が設備投資して工場を新しく建てたんです。そこで改めて家業を継ぐという選択肢が出てきました。

就職浪人するか?家業を継ぐか?悩みに悩んでいた時、彼女(現在の妻)に『もし家業を継いだら、一緒にやってくれないか?』と聞いたんです。覚えてる?

真由美さん)う、うーん・・・

一同)(笑)

  奥様の真由美さんとは同じ大学だったんですよね。

そうです。当時は若かったから、深い考えもなく答えたとは思うんですけど。丹波に来てからちょっと後悔したんかな?

真由美さん)いやいや、そんなことないですから(笑)

 一同)(笑)

自分の性格的なことを言うと、一つ何かを始めると、ずっと続けていくタイプなんです。往生際が悪いというか諦めが悪いというか(笑)

いったん就職すると、その分野を突き詰めてしまいそうで、小さい頃から思っていた“家業を継ぐ”ことから離れていき、結局、会社に縛られて、家業を継ぐことが出来なくなるのでは?という不安もありましたね。

そんなこともあって、大学卒業と同時に、思い切ってUターンし、家業を継ぐと決めました。

先代の社長は継ぐ、継がないに関して何かおっしゃられましたか?

一切、何も言いませんでしたね。『継ぐ』と言ったら、『ほなやれや』という感じで。

後に後日談を聞いた時、継いで欲しいという本音はあったけど、「子供は自分の人生やりたいように生きて欲しい。親が将来こうしろというのは違うな」と思っていたようです。

真由美さん)親の気持ちとしては、子供の将来はあまり縛りたくないですよね。そもそも、自分でやる気にならないと仕事はうまくいきませんし。

余談ですが、仕事をどうするかの選択肢の中で“家業を継ぐ”ってハードルが一番低いですよね。親が「やれ」と言うだけで会社に入れる。

でも、一度会社に入ると、出口は自分で見つけないといけません。今になって思うことですが、ハードルが低い分、出口までの道のりを自分自身で必死に模索する覚悟が必要だなと痛感します。

事業継承した当時は『このまま胡坐をかいてたら絶対に会社潰すな』とかなりの危機感がありました。常に模索しながら、10年かかって、何とか形になってきました。

事業主の親を持つという感覚が自分には分からないんですが、実際お父さんはどういう印象だったんでしょう?

親父みたいにはならへんと思ってましたね(笑)

真由美さん)性格もタイプも全然違うんですよ。営業のやり方ひとつとっても。ただ、一つだけ言えるのは、二人とも前向きでエネルギッシュですね。

社長は、表に気持ちを出すタイプではないんですが、中身は結構エネルギッシュな感じ。会長は見た感じからしてエネルギッシュで『ワシがやる!』と気持ちを前面に出すタイプ。見た目は違っても、本質は同じかなと、傍から見てると思いますね。

性格は違うけれど、二人とも「会社を良くしていこう!」というバイタリティがすごくあると思いますね。照れくさいから口には出しませんが、お互い尊敬していると思いますよ。

同じ方向を向いている感じが素敵な関係ですね。

父は国鉄で働いてた期間が長かったんですよ。国鉄でトンネル掘ったり、橋梁を架けたり。

現在、土木をやれているのは父の存在が大きいです。公共工事も、僕には、実務の経験がなかったんですが、父は、国鉄時代に土木畑の叩き上げで実務をやってきてたから、それが大きかったなと。

石を基盤として、第二創業、第三創業をしてこれたのは、父が土木をやっていたおかげですね。今の総合工事業の基盤になりました。

そうだったんですね。素人考えでは、どうにも石屋さんと土木工事って繋がってそうで繋がってない印象でした。

真由美さん)実際は、かなり密接に関係してるんです。お墓って、特に地方では山側にあるじゃないですか。都会の霊園のように、綺麗に整地されたところしか見てこなかったらピンとこられないかも知れませんが。

地方はやはり昔ならではのお墓が多いので、墓石を建てる周辺の工事は、従来からけっこうあるんですよ。

ああ、ほんとですね!確かに!そう考えると土木も関わってるんですね。

「心を込めて」「人を大切に」次の10年へ

社長として、この会社で大事にしている方針はありますか?

会社の目的として、経営理念は「心を研き 技を磨いて 良い仕事」としています。また、会社のあるべき姿を「社是」に定めています。

やっぱり心が一番大切ですね。まずは心を研き、次に技術を磨いてはじめて、お客様に喜んでいただける良い仕事が実現できると考えています。

いかなる成果品であっても、本質は同じです。どんな工事にも共通するマインドを、経営理念としています。

素敵ですね。ちなみに、先代から受け継がれてきた教えの影響はありますか?

心が大切、というところですね。要するに、「お客様に喜んでいただける仕事をしなさい」ということです。

「自分たちの会社が儲かるか儲からないか」ではなく、ただひたすら「お客様が喜ばれることに邁進しなさい、利益は後から付いてくる」っていう考え方です。

この4月から新しく外構工事部門を「ガーデンCOCORO」として立ち上げました。この事業も同じく、「心を大切にしていきたい」思いで名付けました。ここ数年で、ある程度のノウハウは蓄積しており、外構工事も心×技術で良い仕事をしていきたいと考えています。

  従業員は今、何人おられますか?

14名ですね。社員・役員が9名、パート・アルバイトが5名です。

北山石材で働こうと思う人、石屋さんになろうと思う人は、基本的にみんな全くの素人からスタートするんでしょうか?

真由美さん)そうですね。この道を目指される方は、皆さん一からスタートされています。特に学校があるわけでもないので、基本から覚えてもらっています。

弊社で働いてもらっている社員さんは、石工事だけでなく住宅外構工事も手掛け、公共の土木工事もこなしています。みんな、弊社から独立しても、十分ひとり立ちできるスキルは身に付いていると思います。

もちろん独立ありきではありませんが、資格を取り、技術を磨くことは、会社の為であると同時に、自分の為だよ、っていう話はよくしています。

素人から始めて、一人前の石職人になるまでどれくらいかかりますか?

社長・真由美さん)10年が目安ですね。

おお、やはり職人の道ですね。

真由美さん)うちは長く勤めてもらっている方が多いんですよ。だから10年ぐらいは普通ですね。パートさんも長いですし。

逆に、10年以上勤め続けられるのは良い会社である証拠のような気がします。

続く要因があるとすれば、社長が何も言わないからかな(笑)

良く言えば、自主性を重んじています。自分が磨きたい技術、学びたいことは自主的に取り組みましょうって。基本的に「こうしなさい」とか、「こうしないといけない」っていうことはありません。

先代や家内はそれが気にくわないこともあるようで。「社長は、社員にもうちょっと指示しないと」と。資格教育してた時なんかは、さすがに言わないとアカンかなと思った時期もありました。

でも、ある時期を境に、「あれこれ口を出すのは自分の個性じゃないな」と思い始めてきて。無理にスタンスを変えようと思ったところで、多分おかしくなるだけだから、「自分のスタンスを貫こう」と割り切ってやっています。

真由美さん)私から見たら、その人の個性によって、自主性に任せるのが向いている人と、向いていない人がいると思っています。全員に同じようにした場合、迷ってしまう子はちょっと不安じゃないかなと思うんです。

何でもかんでも自主性じゃなくて、臨機応変にした方がいいなと思うことはあります(笑)

その代わり、チャレンジした社員が、失敗や重大なミスをしても、社長が責任持つからっていうところで補完してるんかなぁと。そう解釈してます(笑)

会社にはどんな人に来てほしいですか?

そうですね。やっぱり自主性がある人。 これから新しく立ち上げる部門もありますし、公共工事もまだ3年程で歴史が浅いですし。事業としては、まだまだ黎明期なんで、事業を一緒に育てていけるような人材に来ていいただけると嬉しいです。

真由美さん)もちろん、仕事の中身が分からないうちは、自分から動けないので、ある程度仕事を覚えるまではサポートし、ある程度のキャリアを積んで、自分で考えて行動できるようになってもらえると一番いいですね。あと、土木施工管理技士を持っていたら、弊社としてはかなり助かります。

北山石材の職場はどんな雰囲気でしょう?

社員さんは、みんな自分と年が近くて、僕の兄弟感覚っていうのはあるかなと。すごく家族的な雰囲気があります。

でも家族的といえばすごい仲良しみたいなイメージがありますが、実際は家族とそんなに喋りますか?家族って、普段から仲良くしているというよりは、何か有事の際に一致団結するといった存在だと思っています。そんなイメージで、日々会社に携わっています。

真由美さん)一人の人が病気になられたりとか、お家の中で問題があった時、我がごとの感覚で心配してサポートするよみたいな、そういった意識がありますね。そういう意味では家族的かな。

付かず、離れず程よい距離感というのが大事だとずっと思ってます。

心の底では家族感覚でと思ってはいますが、それでも社長から休日に電話かかってきたら嫌でしょうしね。公私はしっかり分けている方だと思っています。

 
ありがとうございました。では最後に、伝えておきたいメッセージがあればお願いします。

創業以来、百年近くの歴史ある会社ですが、事業の中身は、時代の流れに合わせた成長と変化の途上です。今まさに脱皮を繰り返し、生まれ変わろうとしている会社です。

黎明期の事業を一緒に育てていけるパートナーを望んでいます。興味があれば是非お問い合わせください。

 
取材させていただくにあたり、社外秘の経営計画を拝見させてもらいました。10年先を見据えてこれだけしっかりとした計画を考えていらっしゃる企業はなかなか存在しないのではないかと感じました。共感できる部分があった方は是非一度、門戸を叩いてみてください。

※この記事は2021年6月2日に取材した情報をもとに作成いたしました。

 

事業者名 株式会社北山石材
代表者名 北山登志紀
669-4124
所在地 兵庫県丹波市春日町野上野1
電話番号 0795-74-1639
webサイト http://kitayamasekizai.com/