移住者インタビュー

Vol.82 / 2022.02.14

Uターンして実家の倉庫で小さなパン屋を開業。地道に着実に、自分の理想を叶えていく。

持留 恵さん

こちらの記事は自身も移住者である丹波市移住定住相談窓口メンバーが行なった先輩移住者のインタビューです。新型コロナウイルス感染拡大防止に配慮し、検温とマスク着用にてインタビューを行っておりますが、写真撮影時のみマスクをはずして撮影させて頂いています。

丹波市山南地域に、ロードサイドでもなく観光地でもない山間のガレージに一軒のパン屋さんがあります。以前にTurnWaveでも取材させて頂いた持留恵さんが開業した「129(いっぷく)ベーカリー」。(2017年の記事はこちら)当時はカフェの開業を目指しながら、丹波市で人が集まるカフェ「cafe ma-no」で働いていた持留さん。お勤めの時からパンを焼くようになり、パン屋を開業するに至った持留さんのことや、実際に開業してからのことを聞いてきました。

 

 

カフェ経営を目指していた5年前。それからパン屋を開業するまで。

2017年にインタビューした当時はカフェ経営を志していた持留さん。そのきっかけについて聞いてみました。

 

最初は、カフェやりたいなあって考えていたんですが、職場でパンを焼いていたりしていて、私の焼くパンがどんどん増えてきて楽しいなとは思っていたのですが、でもパン屋にはならないと当時は思っていたんです。

 

なぜかと言うと、周りのパン屋さんの働き方を見ていてきついイメージしかなかったからなんです。でも、前職を辞めるときに最後2日間パンを焼かせてくださいってお願いをして、パンのイベントをした時に、お客さんに「次はいつなんですか?」って聞かれて。仕事を辞めてからその言葉が心に残っていたんですね。

 

当時はカフェで働いていた持留さんでしたが、その職場でたびたびパンのイベントを開いていました。パン屋にはならないと本人は考えていたそうですが、少しずつファンがついて、お客さんが待ってくれていることに感じるところがあったそうです。

 

 

自分もパンを焼くことを続けたいなと模索している中で、栃木県那須町で地域おこし協力隊として働きながら、週2日だけ地域のおじいさんがやってたパン屋さんを借りて、パンを焼いている女の子に会って。がっちりパン屋ではなく、私が思っていたような大掛かりな設備でもなくパンを焼いて売ってたのを見て、自分でもできそうだなと思ったんです。それで自宅のガレージを改装して先に工房をつくった。そこからあっという間の2年でした。

 

思い立ったらすぐ行動に移した。中古の設備を入れて、少しずつ新しいものに交換していく。

 

パン屋をやろう、と決めてから即行動に移した持留さん。地方では開業や民家の活用に補助金が出たりしますが、待てなかったので活用しなかったとあっけらかんと笑います。Uターンの強みでご実家のガレージを改装したので、費用も抑えられたようです。

 

 

家賃がいらなかったのは大きかったですね。ですが設備にはやっぱりお金がかかりました。最初は中古で購入して、例えばこの冷蔵庫は途中で新品に変えて。ちょっと待ったら補助金を貰えたりするのに、ちょっとも待てない。すぐやりたかった(笑)今思うと(申請してたら貰える)お金は大きかったですけどね。

 

創業や地域再生について、補助金を活用する事業者さんは多いですが、計画から実行まで「これを創りたくてしょうがない」というモチベーションですぐに行動し、ものづくりや仕事づくりをしていく人が一定数います。不思議と、そういう方は長く良いお商売をされている方が多いとも感じます。

 

少しずつコツコツですね。本当に。喜んでくれるお客さんに美味しいパンを食べてもらって、また設備を良くしていく。そういえば、やっとエスプレッソマシーンも入れられたんです。念願の。

 

 

最初から完璧を求めると初期投資もすごい金額になりますが、持留さんは一歩、一歩、利益を投資に回して着実に経営をされています。

 

 

実際にパン屋を開業して。当初の想いから変わったこと、変わらなかったこと。

 

開業当初は必死でイベントをメインでやろうと思ってたんです。工房でパンを焼いて外で売りに行く、みたいな形に。それで、このお店は木金にあけて、土日にイベントに出ていたんです。それも結構楽しくてお客さんも増えたし129ベーカリーを知って貰えたんですが、コロナになって店舗を大事にするようになって。外に出にくくなったのもあって。それが開業から1年くらいの時でしたね。

 

コロナ禍になり通販も考えた持留さんでしたが、得意とするクロワッサンや、サンドイッチなどの惣菜パンはどうしてもお店で直接売るのが一番になってくる。新しい販路に力を入れるより、近くの人に来て貰えるようにどうするか、を持留さんは考えたそうです。

 

 

 

パンって作るのにすごく時間がかかりますよね。ドリンクは利益というか、人件費や手間がパンほどかからないのが大きくて。コロナ禍なので基本はテイクアウトになるのですが、コーヒーをお客さんに頼んでもらえることも増えてきました。

 

お菓子もやってるし、コーヒーもやってるし、ma-noで勉強させて貰ったデザインもカメラも、全部出せているんじゃないかなって思います。パンも一人で黙々と創るのが好きだから向いているのかな?睡眠時間が削られること以外は自分にあっていますね(笑)

 

 

 

 

 

生まれ育った地元でお店を開業して、よかったなと感じること。

 

同級生がきてくれたり、そのお母さんが来てくれたり、村の人が来てくれたのは大きかったですよ。実際、「高いと思うけど、やっぱりおいしいから買いに来るわ」って言ってくれるお客さんもいる。うちは価格帯としてはめちゃくちゃ高いパンとめちゃくちゃ安いパンの中間くらいで。

 

ただ、子供達だけで来た場合にまけてあげたいって思っちゃうけど。お小遣い握りしめてきたのをみると申し訳なくて、、もう少し安いパンをつくるか、、とかも思うので模索中ですね、、。

 

地元向けのお店と、外から来る人向けのお店。都市部に近い丹波市では、高価でこだわりのものを作って都市部のお客さんを呼び込むお店も多くあります。持留さんはご自身のお店を「その中間」とお話してくれましたが、実際に味が美味しいから、という理由で地域の人がまた買いに来てくれるのは持留さんの今までの努力の賜物ではないかと感じます。

 

 

最後に、今後のことについて聞かせてください。

 

どうしようか模索中ですね、、。カフェもやりたい思いはあるが、人手も必要になるので。逆に言うと、結構みんな時間ないのかなとも思ったりすることがあって。ご時世的にはテイクアウトの方が売れるかもしれないですね。

あと、お菓子作りが好きなスタッフが増えて、その人もお店作りしたいって、もう独立のことまで考えているんですよね。私もcafe ma-noにお世話になって実現できたから、今度はその人の夢が実現できるようにサポートできたらなと思います。

 

 

 

コロナ禍という大きな社会環境の変化がありましたが、意思は変わらずお店に前向きに。けれど着実に一歩ずつ自分らしいお店づくりをしている持留さん。生まれ育った地元でできるパン屋の形を考え、柔軟に変化しながら事業を発展させている姿が印象的でした。好きなことを仕事にしたいと考えた時、まず自分でリスクを取ってやってみることから始めてみると、思ったようにはいかないことも道が拓けていくのかもしれません。

 

 

以前、cafe ma-noで働いておられた時にも同じスタッフで取材させて頂いた持留さん。とても真面目で、開業にあたっては不安もあると正直にお話される方でした。色んな葛藤を持ちながら決断した持留さんだからこそ、何か新しいことが起きた時に一歩一歩解決していく姿勢があるのではないかと思います。今後もどんどん魅力的になる、素敵なお店を開業されたなと本当に嬉しく感じました。