障がい者の“自立”を目指し続ける福祉事業所
レジリ合同会社
- 医療・福祉
丹波市の柏原町柏原と春日町下三井庄で、職業訓練の観点から障がい者の自立を支援されている福祉事業所があります。今回はそのレジリ合同会社に取材しにいってきました。
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◆福祉の観点から見た農業は自立への第一歩となり得るもの
◆職業訓練と自立~背景とスタンス
◆人が人を呼ぶ福祉施設に~みんなで創る働き場所
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今回は、代表社員の山本真義さんにお話を伺ってきました。
福祉の観点から見た農業は自立への第一歩となり得るもの
まずはレジリ合同会社の事業概要を教えてください。
会社は2021年1月に設立しました。
大きく三つありまして、職業訓練校を運営する“研修事業”、就労継続支援B型のもくもく農園とグループホーム運営の“障がい者自立支援事業”、そして“農業”ですね。一つのホールディングであるイメージでやっています。
なるほど。色々されていますが、一番最初にできたのはどれなんでしょう?
丹波市では柏原地域のグループホームが一番最初です。
春日地域のグループホームともくもく農園はクラウドファンディングを実施し、古民家を改修して2021年12月に始めました。柏原町柏原は女性限定のグループホームになっていまして、春日町下三井庄のグループホームが男性限定です。
男女別々にされた理由は何かあったんですか?
一つ屋根の下で共同生活することになるので、分けておかないとあかんやろうなあと思ったんです。
もくもく農園には両方のグループホームにお住いの方もこられてるんですか?
そうですね、その場合もありますし、グループホーム在住ではなく通いでこられる方もいらっしゃいます。
グループホームを利用するのに、もくもく農園を利用しなければいけないといった制約はないです。
(もくもく農園から望む里山風景)
ただ、当初の発想としては、この辺りは本当にのどかな田舎といった具合ですので、もくもく農園をやるにしても住まいがなければ誰もこないんじゃないか?と思ってたんですよ。
でも案外、通いの方がいらっしゃるので送迎も行っています。
なるほど、そうなんですね。
しばらくして気がついたんですが、やっぱりのどかな場所なので都会的な誘惑がないんですよ、本当に。
なのでそういうところに弱い人なんかにはもってこいでしょうし、都会的な生活にストレスを感じてたりされる場合なんかにはちょうどいいんだろうなと感じています。
もくもく農園を利用されている人は、ほとんど丹波市内の人ですか?
そうですね、通いで来てくれている人はほとんどが丹波市内の人です。グループホームを利用されている方は市外の人が多いですね。グループホームのお話聞きたい、見学したいというお問い合わせのほとんどが今は市外の方です。
僕が感じているのは、この辺りで生まれ育ってきた人はおじいさんおばあさんの代から、ご両親たちにも農業で生きていくのは難しいというイメージが割と強くあって、そこでさらにこういったグループホームとなると敬遠されている部分もあるんじゃないかなと。
(春日町下三井庄のグループホームの一室)
(春日町下三井庄のグループホームの一室)
うーん、確かに。農福連携といった言葉が出てきたのも割と最近ですし、まだなじみが薄いですね。
障がい者の雇用という側面からすれば、障がい者の方は健常者の方よりも配慮しないといけないところはありますし、出来ること出来ないことがはっきりしていますが、それは一般企業で働く場合も農業する場合も同じことですよね。
農業における作業といえば草むしり、草刈りはもちろん、種植え、マルチを張る、水やり、収穫したものを梱包、出荷する等、作業の幅が多岐に渡ります。収穫だけならなんとか出来るよって方もいれば、袋詰めは任せてという方もいるでしょう。
我々のところは箱に入れてインターネットで販売しようとしていますが、インターネットに詳しい人も必要です。
(もくもく農園の作業場)
スタッフの中にもネットに詳しい人がいるので、説明を聞いて一緒にやっていく。それが出来るようになったら、別にうちじゃなくてもよそでも同じように働けるようになる訳じゃないですか。
利用者さんにはそうして力をここで少しずつ蓄えていって、最終的には“自立”というところで羽ばたいてください、卒業してくださいと話をしています。
“自立”。誰にとっても大事なことですね。
農業を商売の側面だけで見られると、確かに厳しく儲からないかもしれませんが、農業にはすること、やれることが沢山あるんですよ。
「どうやったら儲かるか」といった発想が大切で、でもそれも農業以外の事業でも同じことです。
農作業は作業の幅が多岐に渡るからこそ、様々な特性を持つ障がい者の方にも、適性がある作業を見つけやすくなります。まずは出来ることを見つけ、そこから少しずつ増やしていき、自立していく可能性が広がっていく。
この事を、どう世間一般に伝えていけるかが難しいところだなあと感じています。だから、今ここで実験しているようなもんです。実証実験中ですよ。
(もくもく農園が管理している畑)
職業訓練と自立~背景とスタンス
山本さんは元々丹波市出身ですか?
いいえ、違います。大阪市です。
丹波市とのゆかりはどうやって始まったんでしょう?
以前、大阪で1,2番の職業訓練をやっていた会社に10年弱勤めてたんですね。そのうち7年程は職業訓練の、1対1での就職相談を主にやってました。
模擬面接やアドバイスするとか、場合によっては30人くらいのクラスの教壇に立って、就職に対する備え等、そんな話なんかをしていました。
その時に、丹波市では兵庫県立但馬技術大学校というところが職業訓練の窓口で、そこから丹波市の柏原地域で職業訓練をできないか?というオファーがあったんですよ。それで当時の会社メンバーと丹波市にきてやりだしたといった流れです。
丹波市との関わりはそこからですので、6,7年前ですね。
なるほど、前職から関わりがあったんですね。
それで丹波市で職業訓練を3,4年してた時に、こっちの知り合いもできましたし、空いてる大きな農家や休耕地、高齢化でお困りの方を、社会課題解決と言えば大袈裟ですが、福祉的な観点からそういう事業できないか?とスタッフとも相談して、今に至ります。
以前の職場で職業訓練をされていた時から、福祉的なところに接点はあったんですか?
職業訓練をやっていますと、その中にも結構、障がい者の方がいらっしゃるんですね。3,4か月訓練して、じゃあ次は就職ですよねとなった時にすぐ就職できるかと言えば、なかなか簡単には就職できないんです。それを目の当たりにしてきました。
以前の会社で当時、我々に何ができるのか考えますと、一番就職に関わるところの就労移行支援事業でしたら、うちの今持っているノウハウでいけるんじゃないかという話になり、就労移行支援事業を企業内で立ち上げたんですよ。
新規参入で、中央区のど真ん中で、テナントビルの一室借りてやりました。その後は一気に中央区で就労移行支援事業所が増えました。こういった経験もあって、我々の福祉事業において、一番の主軸にあるのは職業訓練。
なので“自立”なんです。
なるほど、納得です。働きたいと思っている人を、きちんと就職に結びつけるっていうのは大切ですね。
そうなんです。基本はグループホーム含めて、働きたい思いのある人を支援し、ひとりだち・自立するという方向に支援する。それは一つ、うちが職業訓練をやっているが為に。
その思いで、全スタッフはおります。
ですから、『うちは卒業ありです。ここを終の棲家と捉えられると困ります。その思いでやっていますので、何か違うと感じられたら利用されない方がいいです』と、利用前に必ず説明しています。
我々はあくまで、自立する為の支援を行います。
(春日町下三井庄のグループホームの台所)
一本筋を通してらっしゃるんですね。
丹波市近郊では次の就職先がなかなか見つかりません。が、都会なら事業所も多く、障がい者雇用が進んでいる企業や障がい者を多数受け入れている特例子会社も多いです。ご自身で働いてみたい企業も見つかりやすいので、そこへ行く為の準備をここでやりましょうよと。
ご飯の支度や一般の家事も含めて自分でできる、自立できるようになったら今すぐにでも『おいで』と大阪や神戸から声かけられてもいけるじゃないですか。
丹波市内の家から通えるところに就職先があればいいですが、なかなか理想通りいかないこともあるでしょう。事業所も少ないですし。
ましてや障がい者の方は車に乗れない事が多いですが、丹波市では車に乗って移動できないと厳しく、どうするかとなればやはり、公共交通機関使って通えるところにいくしかないですよね。
となれば、うち以外もうまく活用されて、公共交通を利用する為の勉強・訓練して、次にいきましょうよと。こんな思いでやってます。
(グループホームでは入居されている人たちとスタッフが一緒になって食事の準備をされている)
よくわかりました。グループホームに入居される方には何年以内とか期限をもうけられていたりするんですか?
そうすると変にプレッシャーなるから、明確な期限はもうけてないですね。でも、人によって違いますが、3年とか5年程の期間を目安にと考えています。
卒業ありきの福祉施設ってかなり珍しい感じがします。
そうですね、我々も普段の様子を見ていて、働く意思や自立する気持ちが見られなかったりすれば、『○○さんの求めている支援とうちが提供する支援とは違うので、望まれる支援をされる事業所を選んでください。うちでは支援できない』とはっきり言います。
基本はやはり、働きたいと思いがある人には次のステージにいってもらいたいですので。
ここ数年はコロナの影響で海外実習生が日本へ来れず、その労働力に頼っていた農家が作付けを落としたなんてニュースも見聞きしますが、そこで障がい者をちゃんと人材として見てくれたらいいのになと思いますね。
なるほど。確かに。
(春日町下三井庄のグループホームの相談室)
例えば丹波市には農の学校(みのりのがっこう)がありまして、生徒さんが何人か見学に来てくれているんですが、ここで障がい者に対する接し方や捉え方を身に着けてもらえれば、彼らが就農される際に障がい者の雇用を検討してくれれば嬉しいなと思っているんですよ。
丹波市と同じような環境下の地方は沢山ありますし、人手不足や担い手不足で悩んでいる人多いと思うんですよ。個人や企業だけでなく、集落もそうです。
従来のやり方で人を雇えなくなったなあと感じている人が、そこで「障がい者に頼みにいったら誰かやってくれるかも」という発想が持てたら、障がい者の働く場所が出てくるよなって思います。
山本さんはスタンスとして、健常者と障がい者、接する時に何か違いをもうけられたりしてますか?
してないです。根本は一緒だと考えています。利用者さんにも言いますよ、『一緒だと思って接します』と。
ただ、『障がい者ということで配慮すべき点はあるから、そこは配慮しますが、それ以外のところは一緒ですよ』と。
例えば今朝もあったんですが、『自分のことは自分で、相手に伝えなかったらわかってくれませんよ。伝えにくいなら伝える方法を一緒に考えましょう』と。
健常者であっても「察してくれ」というのは無理があります。誰でも同じです。
確かに。就職とか、仕事のことになればなおさら大事な気がします。
ほとんどの人にとって“働く”ということが最終的な自立になってきますよね。就職する時にはまず職務経歴書があって、それに自分がどういう仕事やってきて、その時にどういう力をつけて、今こんなことができますと書かなければいけない。
若い人なら職歴が少ないでしょうから、じゃあそこの会社に入った時にどんな仕事をして、どうなりたいかを伝える必要がでてきます。
これはまさしく障がい者も一緒で、同じようには書けないかもしれませんが、少なくとも自分の障がい特性はちゃんと相手に伝えることが大事ですよね。
こういう時にしんどくなります、しんどくなったときは横にならせてほしい、仕事を受ける時には誰かと1対1でやらせてください、そうすればちゃんと報告、連絡、相談できますとか。
そういうことを、少しずつ紐解いて、自分の過去と向き合いましょうと。
一般的な就活の自己分析でも同じですね。
障がい者の方によってはこういった振り返りは非常に難しいかも知れませんが、それでも少しずつやっていって、自分はこんなことですよと伝えられるようになってもらって。
そうでなければ、障がい者にも色んな方がいらっしゃるので、単純に「雇ってください」と言っても誰も雇ってくれませんよ、といった話もします。
その辺りは確かに、健常者でも障がい者でも同じことですね。
原点はここです。これはどっちかというと、中途発症した人は過去に就労を経験された人が多く、理解されやすいですね。
先天的な障がい者にはなかなか理解してもらいにくく、多分、違う観点からアプローチしていく必要があるんだろうなと思いますね。
根本的に、先天的な人よりも、後天的な人の方が圧倒的に多いんですね。そういう人たちがいざ就職となった時に、なかなか雇い入れしづらいのが実情です。
症状にもよるところがありそうですね。
企業は同じ障がい者の雇用でも、わかりやすいケースを好む傾向があります。簡単な例でいえば、事故で片腕がなくなった人は見た目の通り片腕がないだけで、それ以外に特に配慮することがないといったような具合です。
でも、企業の採用担当者とは『そんな人はなかなか居ないですよ』って話になります。そういう人はすでにどこかで働いてますし、どっちかというと表面上わかりにくい、鬱やパニック障害を中途発症された方が世の中的には多いので、そういう人たちをどうやって次の職場に活かすかっていうところに結び付けていく必要があります。
以前から企業側への働きかけも仕事として行ってきましたが、障がい者雇用における法定雇用率も年々上がってきてます。
今後おそらく、雇用したい障がい者の取り合いといったことが起こりますよ。なので、すぐに雇用されない方への配慮を、社会全体の仕組みとして整えることが今、大切だと感じています。
人が人を呼ぶ福祉施設に~みんなで創る働き場所
今されている人材募集について教えてください。
グループホームの関係で採用を検討しています。人がもうちょっと居てくれた方がいいなと。グループホーム自体、外部サービス利用型というもので、日中は利用者さんが居なくなります。
利用者さんは日中、もくもく農園に通うか、ほかのB型事業所などに行ってるか、どこかの企業にお勤めされているとか。
日中、利用者さんはどこかの事業所などに通っているので、必要な人手は足りてるんですが、もっと手厚くできた方がいいと感じている次第です。
こういった福祉のお仕事は、どういう人が向いているとか、傾向とかありますか?
そうですね、個人差はあるんでしょうが、経験として子育てされたことがある方は多分、やりやすい部分があるんじゃないかなと思いますね。
例えば障がいのある方は、かまってほしい気持ちの強い方が割と多くいらっしゃり、感覚としては子どもと接しているのと近かったりします。
肝心な時に肝心なことが話せないといったことがあった場合に、子どもを育ててきた人でしたらそこは上手に聞き出すんやろうなあと。
自分の子どもに対してなら厳しく色々言えるけど、他人のお子さんには言えないところもあるでしょうが、仕事としての一種の割り切りを持って、経験を活かして接していただければと思います。
あとはやっぱり、人へのお世話が好きか嫌いか。これで大体わかってきますよ。
これからレジリ合同会社をどうしていきたいかといった展望はありますか?
まずスタッフにも常々いってますが、継続ですね。いずれはスタッフの中から事業を継いでくれたらと考えていますのでその話もしつつ、我々の活動を全国に広げていって、障がい者の雇用を拡大したいです。
ゆくゆくは、自分たちで作ったお米や野菜を使ってレストランとか宿泊施設をしたいなと思ってるんですよ。研修の受け入れが出来るような施設をイメージしてます。現に、長野県から7月に見学にこられるんです。
必ずそこにも、そういう業界で働いてたけど中途発症されたという方がいらっしゃるので、その人たちを受け入れできる場所にできないかなあとスタッフで話しています。余った野菜は売れるし、使えるし。
いいですね。素敵です。
もくもく農園で有機農業を教えてくださっている農家さんからも色んなコラボの案をご提示いただいてますし、それ以外からもたくさんお声がけしてもらっている状態です。まさに人が人を呼んで、色んな事業が興ろうとしてるんですよ。
それと共に、それぞれの障がい者の能力を向上とまではいわないけど、働きたいという思いをなんとか形に、みんなでする。そこに関わった人みんなでする。
世の中には福祉に関する事業は沢山ありますが、我々の話に共感できる方は是非ご一緒ください。
ありがとうございました!
取材時点で、グループホームに入居されている方の中には一級建築士を目指して勉強されている人もいて、伺ったお話の通り“自立”に向けて、日々研鑽されている様子が伺えました。ご興味を持たれた方は是非お問い合わせください。
※この記事は2022年5月23日に取材した情報をもとに作成いたしました。
事業者名 | レジリ合同会社 |
代表者名 | 山本真義 |
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所在地 | 兵庫県丹波市柏原町柏原130-2 |
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