丹波にクラフトビールのムーブメントを!Iターンをして大好きを仕事に
松井千佳さん
2017年・2018年に引き続き、丹波市が実施している「お試しテレワーク」企画で来丹された、東京在住のライターFujico氏。普段、東京に住んでいる方にとって、丹波市の人たちの暮らしはどんな風に映るのか。
この記事は、彼女が丹波市での滞在期間中に出会い、交流された方へのインタビューをまとめたものです。
丹波市に興味がある方はもちろんのこと、丹波市に住む方々も楽しみに見ていただければと思います。
地方への移住で不安に思われることの一つは、職探し。求人がないのでは、自分の好きな仕事ができないのではないかと思い、移住を躊躇している人も少なくないであろう。そこで今回は、大阪市内から兵庫県丹波市に移住し、「大好き」を仕事にした松井千佳さんにインタビューを行なった。どうして地方で好きなことが出来ているのか、地方で働く楽しさとは何なのか尋ねてみた。
都会生まれ都会育ち。想像もしなかった田舎暮らし
もともと大阪市出身で、実家も大阪市。丹波市とは縁もゆかりもなかったんです。
そう笑顔で答えてくれた松井さん。大阪で生まれ育ち、就職先はもちろん大阪市内。家族もアウトドア派ではなかったため、幼少期にキャンプへ!などの記憶もなく、田舎とはあまり縁のない生活を送っていたという。そんな彼女が、なぜ田舎暮らしに踏み込んだのか。
きっかけは私の夫です。彼はもともと自然がある場所で育ったので、田舎で暮らしたいという希望があったみたいです。
田舎への移住を提案をしたのは、本人ではなく松井さんの夫。忙しい都会から離れ、ゆったりとした生活をしたかったそうだ。しかし松井さんは、田舎で暮らすという想像ができなかったため、最初は躊躇っていた。
都会を離れるなんて考えてもいなかったので、乗り気ではなかったのですが、当時、丹波市の移住相談窓口を運営していた井口さんに出会って、気持ちが変わりました。
丹波市の移住相談窓口業務を当時受託されていた株式会社みんなの家代表の井口さんとの出会い。井口さんはもともと松井さんと同じく大阪市内出身で、生まれ育った環境も似ていた。そんな井口さんが、丹波市内を自分の休日を返上して案内してくれたことにより、丹波市の景色や丹波市の人々と出会った。そこで田舎暮らしも悪くないかもしれない、と感じ始めたという。
実際足を運んだことにより、田舎のイメージも良いものになりました。もちろん丹波市以外にも田舎はありますが、ここはほどよく田舎で、都会にも出やすい。住むにも良い場所だということがわかり、丹波市に決めました。
こうして出会いに導かれ2015年、松井さん夫婦は丹波市に移住することになった。
新天地に来たのなら、新しいことにチャレンジしたい
丹波市に移住する前は、スキンケアメーカーで正社員としてキャリアを積んでいた松井さん。丹波市に移住することがきっかけでその会社は退職した。もちろん、このキャリアを活かし同じような仕事もできたと思うが、彼女は全く違う業界で働くことに踏み切った。
田舎ではスキンケアの需要も限られてると思いましたし、せっかく移住したのなら、好きなことをやってみたいと思いました。
「好きなこと」…そこで松井さんが思いついたのが、クラフトビールだった。松井さんがクラフトビールとの出会ったのは、大阪にいた時のこと。もともと食べることが大好きという彼女は、クラフトビールに出会い、こんなおいしいビールが世の中にあるのかと、感銘を受けたという。日本のビールといえばラガービールだが、クラフトビールはラガーに比べフルーティ。さらに種類が多くあり、種類によって全く違うフレーバーを打ち出してくる。この種類の多さと、さまざまな味の違いが面白く、ハマったそうだ。
都会ではクラフトビールブームが来ていますが、丹波市ではクラフトビールはまだまだ浸透しておりません。飲み屋や酒屋に行っても、クラフトビールがあまり見られないため、そこにチャンスがあると感じました。
規模が小さいからこそ、自分ができることは無限
松井さんがクラフトビールを広げたいと思い職場として選んだのは、なんと酒屋だった。
酒屋では酒を販売するだけではなく、ビールのバイヤーとしての仕事も行なっています。今この店内においてあるクラフトビールは、私が選んだもの。丹波ではまだ、クラフトビールの需要が低いので、販売戦略も一緒に考えます。色々チャレンジができて面白いですね。
松井さんが勤めている酒屋の社長は、大のお酒好き。都会から来た人もびっくりするほど、多くの種類を扱っている。しかし現状、ワインや焼酎などのレパートリーが充実している中、なかなかビールの幅を広げられず頭を悩ませていたそうだ。そしてそのタイミングで入社したのが松井さん。社長と意気投合し、クラフトビールの幅を広げていくことにした。
丹波の人は、まずクラフトビールとは何だろう。というところから広めていかなければなりません。なのでわかりやすいポップ作りをしています。
ただ単に商品の説明をしても、人はクラフトビールを購入しない。クラフトビールとは何なのか、どんな味なのか、ラガービールと何が違うのか。そんな疑問を解消し、なおかつ一目でパッと目につくポップを、試行錯誤しながら作っているという。
人間の肝臓は限られています。ならばおいしい物を飲んで欲しい!
おいしいからこそ広めたい。馴染みがない物だからこそ面白い。広めることは難しいが、だからこそチャレンジしがいがある。クラフトビールの話で盛り上がり、終始笑顔の松井さんは、丹波市に移住したきっかけで自分が好きなことに飛び込むことができた。
無理はしない。それが続けるためのスタイル
実は、松井さんが丹波市で「好きを仕事に」し始めたのは、クラフトビールだけではない。
丹波に来てからビジネスとして始めたことがもう一つあります。推掌(すいな)です。
推掌とは中国の伝統的な手技療法で、鍼灸・漢方に並び、中国では三大療法の一つ。日本の指圧や按摩マッサージの基となった手技療法である。以前松井さん自身が推掌の施術を受けた時にとても気に入り、この技を使ったリラクゼーションケアを自分でもやりたいと思ったそうだ。それから3~4年ほどかけ、大阪市にいた際に資格を取得。しかし実際に大阪ではビジネスは出来ていなかった。
今は丹波市で行われるイベントで、月に2回ほどリラクゼーションを行なっています。
丹波市青垣町にある衣川會舘という地域の交流スペース兼コワーキングスペースにて、月1で行われるイベント・キヌイチ。そして「丹波をハッピーにするマーケット」として毎月第2土曜日に丹波市柏原町で行われる野外イベント・ハピネスマーケットでリラクゼーションを行なっているという松井さん。推掌に関しては今のところ店舗を持たず、イベントでゆっくりやっていきたいという。
場所を借りて店舗を持っている人の話を聞いてみると、経営に難しい部分もあるなと感じていて、今はイベントや出張ベースで良いかなと思っています。
松井さんの素敵なところは、「無理をしない」スタイル。楽しい・やりたいという自然とみなぎってくる力を基に活動し、しかし決して無理はしない。それが楽しく、そして長く続かせるために、とても重要な部分なのだ。
今後の理想の丹波ライフ
今後はもっと、丹波でクラフトビールを広めていきたいです。あと、古民家を買いたいと思っていて、もし購入したら、施術が行える部屋を1室作りたいですね。
今も何十種類ものクラフトビールを仕入れているが、魅力的なクラフトビールはまだまだたくさんある。クラフトビールの魅力を丹波の人に広めつつ、みんなで楽しくクラフトビールを飲む会を開きたいという松井さん。また今は賃貸物件で暮らしているが、ゆくゆくは古民家を購入し、その1室を推掌の施術ができる部屋に改造したいという。夢は広がるばかりだ。
都会は、情報量が多いことが魅力。でも住むのは丹波市が良いですね。丹波市には都会のように、疲弊している人がいない。また、四季もちゃんと感じられる。人間らしい生活ができます。
インターネットが普及しているとはいえ、実際に目で見てムーブメントを感じられるのは都会であり、それは都会の良さである。しかし丹波には都会で良く見る、疲れ切った顔で歩いている人がほぼいない。ここでは無理せず自然体で生きている人が多く、顔の表情も明るい。心と体の健康を選ぶのであれば丹波が良いと、松井さんは言った。
やりたいことを、自分のペースで無理なく行う。競争をするのではなく、一番大事なのは、自分がどうやって楽しく幸せに生きていけるか見抜くこと。それを丹波市に移住したことで、実行できている松井さん。もし、地方移住を考えている人がいたら、ぜひ肩肘張らずに飛び込んでみるのも良いかもしれない。松井さんのように、チャンスは自分で作っていけるのだから。
移住相談に関わるお仕事をしていると、必ずと言っていいほど「田舎でやりたいことが何か定まっていない」という相談を受けることがあります。もちろんご本人はそれを悪く捉えられていることが多いのですが、実際に松井さんのように移住してこられてからやりたいことをやろう、とかこうしてみよう、ということを形づくっていく方が多いのも事実なんです。逆に理想を求めすぎてギャップと苦しんでいる人もいるくらい。こうやって肩肘張らずに今これをやりたい、チャレンジしてみたいということを小さくてもはじめていけば、自ずと協力者やファンが増えていくのも人のつながりが深い丹波の魅力かもしれません。