人とのつながりを大事にできるパン屋さんになれたら
パン工房 ひとたね 山本香奈子さん
田園風景広がる山裾の一軒家。農業倉庫を改修して小さく営むパン屋さんがあります。なかなか注意して探さないと見落としてしまう、道路から少し奥まった場 所にあるパン工房・ひとたね。店主の山本さんは大阪 市で生まれ育ち、ご主人の仕事の都合でアメリカにも 4年ほど住んでいました。帰国後、農業をしたいとい うご主人の想いがあり、丹波市に引っ越してきて5年 目になります。農業の収入とは別に、持続的に自分の 好きで得意なことを仕事にできないかと、パン工房を準備し、2016 年にオープン。
自分が好きで、仕事にできること
移住しご主人の農業を手伝って いた山本さん。自分が得意で好きなことを仕事にして、収入を得ら れないかと考えたことがオープンのきっかけになったそうです。
〝農業って収入の時期が偏ったりすることもあってどうしても不安定さがあるんですね。それで、 持続的にできる仕事を何かひとつ作ろうと思って。自分自身はパンが好きでやっていて、得意だったのでお店をしてみようかなと。〞
〝深夜の3時半からパンを焼いたり、効率はそんなに良くない 働き方だと思うのですが、好き でやっているのでストレスは感じないんです。結果もすぐ出てくるし自分でやってるのは面白 いなと感じています。〞
農業とパンの力で、実現したいこと
〝主人と一緒に、事業を始める時のコンセプトを作ろう、という話 になったんです。その時に「どう いう社会になってほしい」かをまず書き出して。パン屋とは全 然違うんですけど、みんなが もっと自由に働けたらいいなとか、子どもがのびのび育ったらいいなとか。〞
〝そう思った時に、私は得意な農業とパンの力でそれを実現していこうと。パンの修行とか、 特別な研修を受けたり全くしていないのですが、私は、農家としてやってるパン屋でいいんだと思って。パン屋というよりは、 農家の一人のお母さんとしてでいいかなって。〞
アメリカからの帰国後、大阪に住み ながらご主人と一緒に農業をする田舎 を探していた山本さん。ふと遊びに来 た丹波市で風景を気に入り、市役所の 就農窓口に相談に行ったところ、色々 な人を紹介されました。
〝最初はぶどう狩りに来ただけだったんですよ。それがきっかけで就農窓口に行って、今住んでいる地域の「どろんこ会」というおじさんたちが中心となって 運営されている営農法人を紹介してもらったんです。その時に「あんた住むところ決まってるんか?」と聞かれて、ないですと答えたら家を紹介してもらって「農地も何とかしたる」ってトントン 拍子に話が決まっていったんです。〞
地域間のコミュニティが色濃く残る丹波市ならではでしょうか。市役所の方が 親身になって相談に乗ってくれたり、地 域の人たちに接したことで移住の話がど んどん進んでいったそうです。
自分で作った野菜やお米を発酵させて 作る酵母も手作りです。素材も加工も、 一から作る過程を見ているからこそ、 安心できる食べ物として自信を持てます。
〝 私は、もともと大手のパンメーカーに勤めていて、営業の仕事をやっていたんです。 当時は、社内でも「100円でいかにパンを大きくできるか」「クリームの味を良くできるか」みたいなことを考えていて。 その時はそれが大事だなって思ってました。〞
〝でも、長男を出産して会社を辞めてから、考え方もガラッと変わったんです。この子は私が食べさせた食べ 物で大きくなるなって強く感じて。 どうせ食べるなら体にも良くて美味しいものを食べさせたいなと考えるようになったんです。〞
社会的にも健康志向の考え方が広まってきていますが、山本さんは素材も自分で作っているからこそ、より敏感に何が健康になる食べ物かを考えていると感じました。お子さんが大きくなった時にスナック菓子や外で美味しいものを食べたくなるのはしょうがない、 食べることを否定しない、その上で、「本当の美味しさを知って育って欲しい、小さい時に食べた味に戻ってきてくれたらいいなって思います。」と柔軟な考え方も ありました。
今後チャレンジしていきたいことは何かありますか?とお聞きしたところ、お店や公民館を借りてパン教室をやりたいとの返事でした。農家と食べる人、親と子ども、そして山本さんと色々な考えをも つお客さん達。人とのつながりを大事にできるパン屋さんになりたいですね、とお話される山本さん。ひとたねのパンが、人と人との架け橋になっていくんだろうなと感じました。