【起業インタビュー】ゆりの花庵

隈本光一さん~定年後を見据えて丹波市へIターン。フランスボンボンショコラ専門店を起業~

移住前はどんな暮らしをされてましたか?

私は移住前、宝塚市のマンションに住んでいました。仕事は損害保険会社で、医療分野の査定業務を担当していました。医療事故や被害者の社会復帰を支援する仕事で、主治医の先生や病院の経営者、弁護士の方と打ち合わせをすることも多かったです。

全国転勤のある会社だったので、2〜3年ごとに異動を繰り返す生活でした。60歳で一度定年を迎え、その後5年間再雇用で働く仕組みだったのですが、65歳以降は仕事がなくなることが分かっていました。そのため、60歳を過ぎた頃から「この先どう生きるか」をずっと考えていました。

仕事の一方で、フランス料理や和菓子、お茶を習うなど、以前から料理やお菓子作りが好きでした。娘がチョコレート好きで、私自身も好きだったこともあり、チョコレートに興味を持つようになりました。本格的に学びたいと思い、フランスから帰国されたショコラティエの先生の講座に応募し、仕事を続けながら月に一度東京へ通い、約3年間修行しました。レシピの考案から製造方法まで、しっかりと学ばせてもらいました。

移住した経緯を教えてください

私の出身は福岡で、高校までは九州にいました。その後、大学で名古屋、東京へ行き、就職後は全国転勤の生活でした。一時期、九州に戻り家を建てたんですが、娘が生まれてすぐに転勤になり、結局ほとんど住めないまま家を手放すことになりました。全国転勤の仕事だったので、家族は九州に残し、単身赴任の延長のような暮らしをしています。

チョコレートの店をやろうと決めたとき、まず考えたのが「どこでやるか」でした。私はサイクリングも趣味で、宝塚の前に大阪に住んでいた頃から、丹波市には何度も走りに来ていました。そのたびに「ここは本当にいい場所だな」と感じていて、もしチョコレート屋をやるなら、都会ではなく、こういう田舎でやってみたいと思っていました。

それで「お店ができる、茶室がつくれる、中庭がある、畑がある」といった条件を探すと、ここしかなく、出会ってすぐ決めました。購入後しばらくは週末だけ通い、自分でできるところはDIYでリフォームし、店舗部分は業者さんにお願いしました。丹波市には2025年2月に本格的に移住しました。

以前住んでいた場所と、仕事や生活での違いは何かありますか?

丹波での暮らしは、正直に言って最高です。人もいいですし、自然が豊かですが、人が少なすぎるわけでもなく、ちゃんと暮らしがある場所だと感じています。全国いろいろな場所に住んできましたが、こんなにバランスのいい場所はなかなかないと思います。

設備やリフォームをお願いした自宅の目の前の設備屋さんをきっかけに人のつながりが広がり、ご近所の方が来てくださることも多いです。自治会にも入っていて、地域の寄り合いやお祭りにも参加しています。いい意味で「人と関われる田舎」だと思っています。

丹波市で起業する際に懸念していたことはありますか?

店をやること自体が初めてだったので、何から始めればいいのか全く分かりませんでした。そのため、まず商工会に相談しました。自分から電話をして相談したのですが、本当に親身に対応してもらえて、不安はかなり解消されました。起業に関する手続きや資金のことなど、分からないことはすべて商工会に聞いて進めていきました。

店をやるなら都会の方がいいかもしれないと思うこともありましたが、田舎出身なこともあって高層ビルやマンションでの生活がどうしても落ち着かなくて。住む場所としても丹波が自分には合っていると感じました。あとは確定申告も初めてなので、結構大変そうだなと思っています。

当初の資金繰りはどうされましたか?

資金は、退職金やこれまでの貯金を使いましたが、それだけでは足りませんでした。そのため、借り入れも行いました。商工会に相談し、日本政策金融公庫を紹介してもらい、無事に融資を受けることができましたね。

屋号の由来は何でしょう?

娘の名前が「ゆりか」ということが由来です。また、敷地内に茶室があり、その茶室の名前が「ゆりの花庵」だったことも関係しています。

もともとはチョコレートとお茶、和菓子を組み合わせたことも同時にやりたいと思っていたんです。でも、一人では全てをするのは難しいので、まだまだこれからですね。

開業されてからここまで、ビジネスの状況はいかがですか?

おかげさまで、遠方からもお客様が来てくださって、売上は安定しています。ただ、一人で製造しているので、作れる量には限界がありますが、自分一人で作れる分はほぼ売れています。

平日は近隣の方が多く、土日は京都や岡山など遠方からのお客様が多くなる傾向があります。来店のきっかけはInstagramが多いですね。丹波市内に限らず、近畿圏内でもフランスボンボンショコラの専門店は珍しいので、専門店だからこそ来ていただけているのかなと感じています。

たまに「板チョコを作ってほしい」と要望をいただくこともあるんですが、最近は物価高騰の影響がすごくて、修行してた頃と比べて2.5倍ほどの原価になっています。チョコレートはロスが少ないのはいいんですが、需要と価格のバランスが難しいところですね。

起業してよかったこと、逆によくなかったことはありますか?

よかったことは、職場が自宅なので通勤時間がないことと、店を通じてご近所の方と自然に交流できることです。店をしていなければ、こうした関係は生まれなかったと思います。

一方で、ここでの事業は実は立ち上げメンバーが他に3人いるんですが、他のメンバーはまだ大阪や神戸で仕事をしているため、なかなか合流できていません。やりたいことはいっぱいあるんですが、現状は一人でやっているため、チョコレートとコーヒーだけで精一杯なんです。

お店を閉めている日も、大体はチョコレートの仕込みをしていて、ものすごい時間がかかるので休みらしい休みをあまりとれていないんですよね。なので来年の4月以降は、月に一度でも完全に休む日を作りたいと考えています。

将来の展望はどのようにお考えですか?

まずは茶室を稼働させたいですね。中庭を使って野点をしたり、和菓子を出したりすることもできたらと考えています。地域の着付け教室とかと一緒にコラボできたらいいなと。

そして3年後を目安に、宝塚にもう一店舗出せたらと考えています。その場合は人を雇い、私は製造に専念する形になると思います。さらに10年後くらいにはショコラティエの弟子を育てて、三宮にも出店して3店舗を展開し、その時点で自分は経営に回りたいですね。

その後は、お茶や自転車イベント、ハーブ栽培など、これまで好きだったことを中心にした暮らしができればと思っています。

最終的に、娘が継いでくれたら私は隠居できていいなあとも思ったりしますが、まだ娘は小学生なので、どうなるかは全くわかりませんけどね(笑)

起業を考えている人へのアドバイスをお願いします

立地はとても大切だと思います。たまたまここを紹介してもらいましたが、向かいには老舗の飲食店があり、裏には地域の公民館や神社もあり、元々人の流れがある場所は事業がしやすいと感じています。実際、近隣との関係性からお客様が流れてきてくださることもあり、そのありがたさを実感しています。

そして、商工会には必ず相談した方がいいと思います。丹波市は外から来た人を受け入れてくれる土壌があり、新しい店ができることを喜んでくれる地域です。いろいろなお店が増え、子どもも増えて、活気のある場所になっていけばいいなと思いますね。

※この記事は2026年1月16日に取材した情報をもとに作成いたしました。

 

事業者名 ゆりの花庵
代表者名 隈本光一
669-3157
住所 兵庫県丹波市山南町和田168-4
営業日 水、木、金、土の10:00~17:00
定休日 日、月、火
instagram https://www.instagram.com/yurinohanaan/