移住者インタビュー

Vol.50 / 2018.12.20

コーヒーで社会貢献を。10年以上願った夢を丹波で叶える

マイケル・フリンダーズ・トイさん

2017年・2018年に引き続き、丹波市が実施している「お試しテレワーク」企画で来丹された、東京在住のライターFujico氏。普段、東京に住んでいる方にとって、丹波市の人たちの暮らしはどんな風に映るのか。
この記事は、彼女が丹波市での滞在期間中に出会い、交流された方へのインタビューをまとめたものです。
丹波市に興味がある方はもちろんのこと、丹波市に住む方々も楽しみに見ていただければと思います。

2020年までに4000万人を目標とし、着々と増え続ける訪日外国人。一方で在日外国人の数も増え続け、昨年、2017年は過去最高の在留外国人数となった。多くの外国人が都会に住む一方で、丹波市に移住をしてきた外国人がいる。その方は、アメリカ出身のマイケル・フリンダーズ・トイ(通称:マイク)さん。彼は2017年に丹波市へ移住し、2018年8月に丹波市の青垣町でカフェを併設したコーヒーの焙煎工房「3roastery(スリーロースタリー)」をオープン。彼はなぜ、アメリカから丹波市に移住することになったのか、彼のこだわりが詰まったカフェとは、そしてコーヒーを提供するだけでは終わらない、彼の夢とは…。早速、話を伺った。

 

 

 

始まりは2005年。夢はカフェを開くこと

 

 

 

アメリカでピーツ・コーヒー&ティーという店で働いて以来、コーヒーにハマって。自分でコーヒー豆をフライパンで煎たり、自分で淹れたコーヒーを人に振舞ったりしていました。いつかしてみたい、と思っていた夢が、丹波で叶えることができたんです。

 

 

 

 

アメリカ、サンフランシスコ空港。焙煎仕立てのコーヒー豆と淹れたてコーヒーを提供する、老舗コーヒーチェーンが新店舗をオープンすることになり、マネージャーとして勤めはじめたマイクさん。当初はコーヒーがさほど好きではなく、興味を持っていなかったが、新鮮な豆のみを取り扱い、本当においしいコーヒーを提供しようとするピーツ・コーヒー&ティーの理念に触れ、どんどんコーヒーの文化にハマっていったそう。それから自分の家でもフライパンでコーヒーを煎たり、奥さんが好きだというカプチーノを作るためにエスプレッソマシーンを購入したり…独学ながらどんどんコーヒーを極めていった。

 

 

 

2005年くらいから、カフェを持ちたいと思っていて。その後ソフトウェアサポートを行なっていたのですが、毎週会社の同僚にコーヒーを飲んでもらい、感想を教えてもらうことで、コーヒーを淹れる腕を磨いていきました。

 

 

 

IT企業に転職した後も、コーヒーを淹れ続けたマイクさん。焙煎も本格的にやるようになり、自分で煎た豆を使用したコーヒーを家族や友人、会社の仲間に振る舞い、より良いコーヒー豆とコーヒーの淹れ方を追求していった。

 

 

 

アメリカから東京、そして丹波へ

 

 

 

当時、妻はサンフランシスコの自宅から勤めていた国際NGO団体の仕事をしていたのですが、東京に転勤することになったんです。

 

 

 

 

アメリカのサンフランシスコの近くにある、サンマテオという小さな町で暮らしていたマイクさんと妻・中川ミミさん。二人ともサンフランシスコで仕事をしていたが、2011年の東日本大震災の被災者対応のため、ミミさんが日本に行くことになったのだ。

 

 

 

妻の転勤について会社に相談したところ、少しでも力になりたいと理解を示してくれて、東京でも同じ仕事をさせてもらえることになりました

 

 

 

こうして二人は無事日本に移住。マイクさんは変わらずIT企業に勤め、ミミさんは東京と東北や海外を往復する生活を続けた。そして東京に転勤となってから3年半が経ち、妻のミミさんがある決断を下した。

 

 

 

妻がNGOの仕事を辞め、自分の故郷である丹波市で、地域おこし協力隊として働くことにしたんです。

 

 

 

より自分の専門分野を突き詰めるため、NGOを退職し丹波市に移住した妻のミミさん。一方マイクさんは仕事の関係もあり、東京に残ることになった。しかし、ミミさんが移住するのとほぼ同じタイミングで、子どもができたのだ。

 

 

 

子どもができ、生まれて9ヶ月ほどは別々で暮らしていました。しかし、娘はたまにしか会えない私に人見知りをしてしまうため、一緒に暮らした方が良いのではないか、という結論に至ったんです。

 

 

 

こうして東京で仕事をし、妻と娘と離れて生活をしていたマイクさんは、IT企業を退職し、丹波市への移住を決意した。

 

 

 

 

 

夢を叶えるまでの険しい道のりと、カフェオープン

 

 

 

せっかく水もきれいな丹波市に移住したことで、昔からの夢だったカフェをオープンさせようと思っていたマイクさん。ただ越してきたばかりは、土地勘もなく丹波市をよく知らない状態。偶然空きができた地元の高校のALT(外国語指導助手。英語の授業などで教師のサポートをする)として声がかかり、4ヶ月働いた。

 

 

 

ALTの仕事を終えてからすぐ、知人からゴルフコース内でのカフェ出店の話をいただきました。ゴルフ場の従業員として働く傍ら、カフェの運営ができるかどうか3ヶ月間試してみましたが、日本とアメリカのゴルフスタイルが違いすぎて自分の理想に合わず、あまりうまくいかなかったんです。

 

 

※ゴルフ場で働いていた当時のマイクさん。

 

 

アメリカのゴルフスタイルは日本に比べとてもゆっくり。コースを回っている時でも、途中で一休みができ、コーヒーを飲む人もいる。そのイメージで、試験的にゴルフ場でカフェをオープンさせたマイクさんだったが、日本のプレイスタイルは、自分より前にプレイしている人を抜かすことができず、ゆっくりプレイ中にコーヒーを飲む習慣がなかった。なかなかうまく行かず悩んでいたマイクさんだったが、転機が訪れた。

 

 

 

と青垣町に古民家を購入することにしたのです。母屋は妻がシェアハウスを作るために使い、離れを利用してカフェを作ることにしました。

 

 

 

 

シェアハウスになる建物と広い敷地。そしてその広い敷地にあった小さな建物…こじんまりとしているが十分広さのあるこの建物を、使わない手はない。焙煎工房を始めるイメージが固まったマイクさんは、リノベーションを開始。友人や知人に助けてもらいながらも全て自力で作業し、本格的な焙煎機を準備、カフェスペースを整えるまで半年を要しました。

 

 

 

コーヒーでできる社会貢献

 

 

 

2018年8月、自家焙煎のコーヒーが楽しめるカフェ・スリーロースタリーがオープン。世界各地から直接取り寄せる厳選したスペシャリティコーヒーをこまめに焙煎、青垣のきれいな水を使って淹れるドリップコーヒーは、ブラックで飲みたくなると着々と認知をあげている。10年以上願い続けた夢を叶えたマイクさんだが、彼の目標はカフェオープンだけにはとどまらない。今後は地球環境に配慮した取り組みや、コーヒー農場との公平な取引を目指していきたいという。

 

 

 

 

コーヒーでサステナブル・サイクルを作りたい。例えば、使用済みのコーヒー粉を農家に無料で提供し、それを野菜の肥料として使ってもらう。そしてそこの野菜をカフェが購入し、カフェで調理してお客様に提供。また、その野菜から出た生ゴミを農家に渡し肥料にしてもらう、というサイクル。こうすればゴミを減らすことができるんです。

 

 

 

サステナブル・サイクルとは、環境や社会にやさしい循環のこと。マイクさんはカフェが繁盛することだけではなく、地球環境のことも考えた上で、カフェを経営していきたいという。ゴミも減らせて、野菜の売上も伸びれば、農家さんにも地球にもとてもやさしい。また近年では生産者への配慮が語られるようになったが、コーヒーの業界ではまだまだ、仲介業者が儲かって適切な売り上げ農家に行き届かない現状がある。少しでもこの状況に加担せず持続可能な社会を作るために、コーヒーを通してできることを行っていきたいそうだ。

 

 

 

コーヒー農場の売上が上がれば、教育にお金を当てることができる。そしてより良いコーヒー豆を作ってもらい、農家もお客さんも喜ぶサイクルを作りたいです。

 

 

 

 

「コーヒー」というワードで、カフェ作りから環境作りまでを考えるマイクさん。今後も丹波市から世界に向け、サステナブルな社会作りを発信していくのであろう。

 

 

 

今後の丹波での生活について

 

 

 

カフェをオープンするという夢を叶えたマイクさん。丹波市での暮らしについて尋ねてみた。

 

 

 

正直、都会の生活に慣れていたので、田舎の生活に慣れるのには時間がかかりました。けれども、都会にいた時よりストレスは減ったし、何よりここは、子どもにとって良い環境。移住してよかったと思います。

 

 

 

 

サンフランシスコから東京へ、そして丹波市へと引っ越したマイクさん。都会の便利な生活から田舎暮らしに移るのが、最初は難しかったという。しかし移住から1年経ち、徐々にこの生活にも慣れ、自然に触れ楽しむ子どもの笑顔も見れる。夢も叶え、今後の目標もあり、次なるステップにわくわくしていた。

 

 

 

今後は料理も出して、コーヒーにもこだわるレストランを作りたい。そして丹波に来る若者に厨房を任せることで、より若者に活躍の場を与えたいです。あとは、ゲストハウスも運営したいですね。おいしい料理とコーヒーが提供されるゲストハウス。とても楽しみ。

 

 

 

妻・ミミさんのシェアハウスは、リフォームを終え入居者が入った。マイクさんも念願のカフェをオープンし、将来は店舗拡大も視野に入れている。市内に自宅を構え、そこでゲストハウスもやってみたいなど、トイ家の夢は広がるばかりだ。丹波市に移住したことがきっかけで、自分の可能性を広げ続けているマイクさん。今後もぜひ丹波市から日本、そして世界へと、彼のおいしいコーヒーと社会への思いが、広がることを祈っている。

 

 

※参考
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00073.html

アメリカから日本へ、そして丹波市へ引っ越してこられたマイクさん。編集部がはじめてお会いしたのはゴルフ場で働いておられる時だったのですが、その時から「こうするんだ」「こんなことをやりたいんだ」とはっきりとした意思を持って行動をされている方だなという印象がありました。一度ゴルフ場でコーヒーをやり出しても、自分の理想の形やイメージがあるからすぐに方向転換して、自分の理想を形づくっていきます。またこのインタビューを通して、例え丹波市でも、都市部で暮らしていても「自分の考えを持ち、それを理想に近づけていく」ということが暮らしを豊かにするために大事なんだなあと感じさせられました。