移住者インタビュー

Vol.86 / 2022.07.25

丹波市が好きで移住!水分れフィールドミュージアムで丹波市の魅力と課題を伝える

朴 侑希さん

2017年から丹波市が実施している「お試しテレワーク」企画で丹波市の関係人口として毎年移住者のインタビューに来てくれる、東京在住のライターFujico氏。コロナ禍で2年の期間が空きましたが、感染状況が落ち着いたタイミングで再び丹波市に来てくれました。
普段、東京に住んでいる彼女の目には、丹波市の人たちの暮らしはどんな風に映るのか。
この記事は、彼女が丹波市での滞在期間中に出会い、交流された方へのインタビューをまとめたものです。
丹波市に興味がある方はもちろんのこと、丹波市に住む方々も楽しく見ていただければと思います。

※この記事は、2022年5月後半に行ったインタビューです。東京から丹波市に来る際にFujico氏には新型コロナウイルス感染の可能性がないかチェック頂き、十分な感染予防実施の上移動とインタビューを行って頂きました。撮影時のみ、マスクを外して頂いている写真もございます。

「大好きな場所だから移住する」。シンプルに見えるが、大人になると実に難しい選択肢ではないだろうか。好きという気持ちだけで移住しても、仕事はあるのか、家は見つかるのか、理想が崩れるのではないだろうかと心配になる人も少なくないと思う。かという筆者もそのうちの一人だ。しかし今回インタビューした水分れフィールドミュージアムで館長補佐を務める朴侑希さんは、悩みに悩んだ末、心の声に従い丹波市に移住した。好きという気持ちに従った移住は、実際どのようなものなのだろうか。丹波市での生活や就職活動について伺った。

 

丹波市にある大学院に進学し、丹波市を好きになる

 

こちらです、と朴さんに案内された丹波市氷上地域にある水分れフィールドミュージアムの交流ギャラリー。壁一面の窓ガラスに広がるため池と山の景色は、時間という感覚を忘れるほど、のどかで美しかった。笑顔で取材班を出迎えてくれた朴さんが初めて丹波市に出会ったのは、大学院生になった時のこと。丹波市にある兵庫県立大学の環境人間学研究科に進学したのがきっかけだという。

 

大学院に通うまで丹波市には来たことはありませんでした。私は兵庫県の高砂市出身ですが、高砂は播州でガチャガチャと賑やかな感じ。一方で丹波市は、穏やかでゆっくりと時間が流れています。人も優しいし景色もきれい、そして食べ物もおいしい。気づいたら大好きな場所になっていました

 

 

 

もともと動物が好きだった朴さんは、人と動物の共生を学びたいと思い大学院に進学したという。特にキツネやタヌキなど中型の動物が好きだったため、丹波市が頭を悩ませている外来種・アライグマを専門に勉強した。アライグマが日々どういう行動をするのかを研究し、効率よく捕獲することで外来種であるアライグマを根絶するのが研究の目的だという。

 

動物は生き残るために野生化して増え続けます。人間の都合で持ち込まれた外来種なので、人間が責任を取るべきだと思いこの研究を始めました。

 

丹波市の自然、生息している動物の状況をしっかりと学んだ朴さんは、教員になることを目指し大学院卒業をきっかけに丹波市を離れた。

 

神戸市で中学校教員になるが、丹波市への思いが捨てきれず

 

晴れて神戸市にある中学校の教師になった朴さん。自分自身が在日韓国人だったため、国際教育や多文化共生に力を入れている地域で教員をしたいと思い、神戸市を選んだ。

 

神戸市の中学校では理科の教員をしていました。クラスにもさまざまな国籍の生徒がいて希望通りの環境でしたが、どうしても丹波市が好きで戻りたいという気持ちが消えませんでした。

 

好きだからという理由で丹波市に移住していいのか悩んでいた朴さん。友達に相談したところ「住みたい街に住んでみるのもありなんじゃないの?」と言われたことにより、移住を決意したという。

 

 

 

 

 

教員はまたやりたいと思ったらいつでも戻ることができます。丹波市に住みたいという気持ちを今は優先させることにして中学校を退職し、仕事も決めずにとりあえず丹波市に移住しました。

 

こうして2020年。朴さんは晴れて大好きな丹波市に移住することとなった。

 

現地で就活!理想の仕事をみつけるも不採用

 

全く仕事を決めずにきてしまったので、丹波市に移住してすぐに仕事探しを始めました。教員になることもできましたが、今はここでしかできないことをしたいと思いました。

 

朴さんは、丹波市氷上地域の水分れという場所にある水分れフィールドミュージアムの求人募集をみつけた。地域の森羅万象を扱い、野外フィールドを活かすこの総合博物館の館長補佐ポジションが空いていたため応募してみたものの、残念ながら不採用となった。その次に応募したのが、大学院で通っていた兵庫県森林動物研究センターの研究職。朴さんはこの職に就くこととなった。

 

 

 

 

兵庫県森林動物研究センターでは研究支援員として働きました。野生動物の生息密度を推定するために、山に調査に行ったりカメラを設置して解析をする仕事です。これを行うことで、野生動物の生息範囲なども確認することができ、捕獲にも役に立つので。

 

 

1年ほど兵庫県森林動物研究センターで働いた朴さんだったが、水分れフィールドミュージアムで働きたいという気持ちは消えなかった。

 

移住して2年目になる時。ちょうど水分れフィールドミュージアムの会計年度職員のポジションに空きが出ました。そこで会計年度職員として水分れフィールドミュージアムに転職しました。

 

 

 

 

 

 

水分れフィールドミュージアムだからこそ伝えられる、丹波市の魅力と責任

 

なぜ、そこまでして朴さんは水分れフィールドミュージアムにこだわったのか。それは研究者と教員の両方を行ったことで、それぞれができない部分を埋める役割がミュージアムだと強く思ったからだ。

 

自分の経験から、研究と教育がかけ離れていることに気づきました。特に兵庫県森林動物研究センターは全国的に見ても最新の研究を行っていますが、それを教育には落とし込めていません。また教員も研究をする時間はなかなかありません。ミュージアムは研究と教育を繋ぎ、教育普及をすることが仕事。ミュージアムで働くことにより、最新の研究を教育に落とし込むことができると考えました。

 

丹波市の動植物や自然についての講義をするのがミュージアムの仕事の一つ。地域の人々が知識を深めることで、丹波市のことを知ることができるだけではなく、自分たちの生活が周りにどう影響しているか理解するきっかけになるそうだ。

 

 

 

 

丹波市はとても特殊な地理状況です。特にミュージアムがある水分れや、加古川と由良川をつなぐ氷上回廊は、瀬戸内海や日本海などさまざまなところに繋がっています。私たち上流に住む人間の生活は、下流の人たちの生活に大きく影響するのです。地形の条件も野生動物の問題も、この地域だけの問題ではありません。

例えば、シカが増えすぎると下草を全て食べてしまい地面が露出する。そこで豪雨が降ったら土砂が流れる。そうすると川に土砂が流れてしまい、魚が減る原因になる。このようなことを伝えていきたいからこそ、朴さんは水分れフィールドミュージアムで働きたいという希望を持ち続けた。

 

2年越しに希望のポジションに就く!ミュージアムの活動で丹波市を知ってもらう

 

水分れフィールドミュージアムの会計年度職員としての経験を経て、2022年4月に晴れて館長補佐というポジションに就くことができた朴さん。これからは、特別展を企画したり出張講義に行って丹波市の自然や動植物について伝えていくそうだ。

 

今回の特別展は沖縄が題材です。沖縄は丹波市と全く関係ない地域に見えると思いますが、実は気候が入り混じることで生物が多様性に富んでいるという共通点を持っています。このように他の場所と比較することで、より自分達の地域に関心を持ってもらえるように取り組んでいます。

 

この仕事では、大学院で研究した野生動物に関する知識から教員としての経験、そして兵庫県森林動物研究センターで務めた職務経験がうまくプラスに生きているそうだ。そして朴さん自身この仕事を通して、より丹波市の知識を深められているという。

 

 

 

 

館長補佐になったことで、プレッシャーはあります。丹波市の方々は生物多様性の保全に対して熱心な方が多く、水分れフィールドミュージアムが中心となって、活動団体と市民の連携をしてほしいという人もいます。まだ始まったばかりなので全てを行うのは難しいですが、徐々に活動範囲を広げていきたいです。

 

住めば住むほど好きになる!やっぱり移住してよかった

 

最初は学生として丹波市に住んでいた朴さんに、社会人として住んだことで丹波市への印象が変わっていないか尋ねたところ、どんどん好きになっていくと満面の笑みで答えてくれた。

 

大学院生の頃は家と研究所の往復でしたが、今は年代関係なく地域の人と繋がることができて一層楽しくなっています。移住者だとか地元の人だとかは関係なく、どんどん繋がるのが丹波市の魅力ですね。地域の人に、水分れフィールドミュージアムで講義をしてもらうこともありますよ。あとプライベートではよく山登りをしています。登りたい山がたくさんあって困っちゃいますね。

 

仕事前に一山登って、頂上で朝食を食べてから出勤することもあるほど、丹波市での暮らしを謳歌している朴さん。今後、朴さんのように丹波市への移住を検討している方へのアドバイスを聞いてみると、少し悩みながらもこう答えた。

 

 

 

 

 

丹波市と一言でいいますが、地域によって特色が全く違うんです。雪がよく降る地域、電車がない地域、商業施設が多く便利な地域など全く違います。なので、自分がどんな田舎暮らしをしたいか検討して、家探しをすることをおすすめします。田舎暮らしって不便に思えますが、意外とそんなことないですよ。あ、でも丹波市内には都市銀行がないので、事前に地方銀行やネット銀行の開設をおすすめします。

 

本当にどんどん好きになっちゃうんです、と笑いながら答えてくれた朴さん。これからも水分れフィールドミュージアムから、そして丹波市から、さまざまな魅力や課題を発信してくれるだろう。きっと朴さんの活動は、丹波市だけではなくさまざまなところに良い影響が出ていくはずだ。

移住者インタビューでさまざまな方にお会いする編集部ですが、Iターンでここまで丹波市という「地域」を好きになって移住してこられた方ははじめてではないかなと思います。生まれ育ったまちだから、誰かがいたから、魅力的な仕事があったから、素敵なおうちに出会ったから、という方がほとんどなので改めて朴さんのお話は斬新だなと思い楽しく聞かせてもらいました。「地域」を理解し、その生態系や環境に興味を持つ朴さんのお話で、改めて丹波市の良さを実感させて貰えたインタビューでした。