移住者インタビュー

Vol.95 / 2023.03.22

イギリスから丹波市へ。森林と古民家がある田舎を求めて家族移住

ジェームス グラハム夫妻さん

2017年から丹波市が実施している「お試しテレワーク」企画で丹波市の関係人口として毎年移住者のインタビューに来てくれる、東京在住のライターFujico氏。コロナ禍で2年の期間が空きましたが、感染状況が落ち着いたタイミングで再び丹波市に来てくれました。
普段、東京に住んでいる彼女の目には、丹波市の人たちの暮らしはどんな風に映るのか。
この記事は、彼女が丹波市での滞在期間中に出会い、交流された方へのインタビューをまとめたものです。
丹波市に興味がある方はもちろんのこと、丹波市に住む方々も楽しく見ていただければと思います。

※この記事は、2022年5月後半に行ったインタビューです。東京から丹波市に来る際にFujico氏には新型コロナウイルス感染の可能性がないかチェック頂き、十分な感染予防実施の上移動とインタビューを行って頂きました。撮影時のみ、マスクを外して頂いている写真もございます。

日本の美しい山々は現在、多くの問題を抱えている。丹波市の森林についても例外ではない。山を管理する人が少なくなり、成長しすぎた森は日光を取り入れず、今まで生息していた動植物が見られなくなる。またその延長線上に土砂崩れが起こるなど実に深刻な問題となっているのだ。イギリスのロンドンに住んでいたグラハム夫婦はその問題を含め日本の山に興味を持ち、何か自分たちもできるのではないかという思いで、子どもを連れて丹波市に移住した。それまで日本に住むとは露ほども思っておらず、丹波市にも一度訪問しただけというグラハム夫婦は、なぜ移住をしてまで日本の山の問題を、丹波市で向き合うことにしたのだろうか。海外で長い間過ごしていたグラハム家族が感じた丹波市での生活や丹波市への移住についてお伺いした。果たして、海外生活が長かった日本人、そして日本に住んだことがない外国人にとって、丹波市は住みやすいのだろうか。

 

ロンドンでキャリアを積む夫婦。イギリスの森を買う

 

夫のジェームスさんはイギリス人。妻の美也子さんは日本人で、15歳の時から単身、留学でロンドンに行き、そこからイギリスで暮らしている。二人が出会ったのは職場だった。

 

 

 

私とジェームスは同僚で、20年ほど監査法人に勤めていました。そこでは、行政の内部監査を主に行なっていました。

 

ロンドンでキャリアを積んでいた二人は、2012年に結婚。2人の娘を授かった。新型コロナウィルス感染症の感染拡大が始まる少し前に、ロンドンの郊外に森林を5エーカー、つまり2ヘクタールほどの土地を購入したグラハム家。イギリスは国土に対し森林面積が約10%と想像以上に少なく、戦争や産業革命などが原因で多くの森林が失われたたため、山はとても貴重で大切にすべき存在だと周知されていた。

 

手続きに時間がかかり、森林が手に入ったのはロンドンでちょうどロックダウンが始まった頃でした。ロックダウンが解除されても、人のいる場所に行きづらい状況が続く中で、自分たちの森林で過ごす時間が多くなり、それがとても良い時間だったんです

 

 

 

日本が持つ森林への価値観に衝撃を受け、移住を考え始める

 

 

森林のメンテナンスをしたり、家族でキャンプできるように場所を整備したりと、街に繰り出せない分、森林で時間を過ごすようになったグラハム家は、自然遊びにどんどんと興味を持ち始めた。その中で、夫のジェームスさんは日本の森林についても気になり始めたそうだ。

 

 

 

森林に対して興味を持ち始め、日本の森林放置問題をインターネット上で見つけたんです。イギリスではこんなに貴重な森林ですが、日本では森林が放置されて欲しがる人も少ないという記事を見た時には衝撃を受けました。

 

 

それまで、日本に移住する予定は全くなかった。仕事はイギリスで行っていたので、生活の基盤はイギリスで整っていた。しかし日本の森林の状況や、田舎では古民家を含む空き家が増えているという状況を調べていく中で、田舎暮らしそのものに興味が湧いてきたという。

 

 

調べていく中で、日本の山は人工林が多く、イギリスで認識されている「森林」とは違うことがわかってきました。また、古民家に使われていた木材も手に入りにくく、家が朽ちてきているという現状も知りました。私たちは森林や古民家に対してプロではありませんが、それらがある暮らし方をしてみたいと思い始めたんです。また、自給自足まで行かずとも、消費だけではなく自分たちで食べるものを作る、そんな田舎暮らしをしてみたいと思うようになりました。

 

 

 

自分たちも日本の山について勉強していきたいと思い始めたグラハム夫婦は、自分たちが山を所有することで、山での楽しみ方や山を大切にするということをより追求していきたいと思い始めた。

 

 

 

両親が繋いでくれた丹波市との縁

 

 

日本の田舎暮らしに興味を持ち始めた頃、仕事もリモートワークが広まっていたため、森林、古民家、人との繋がりが感じられる田舎暮らしへのポテンシャルがより強く感じられるようになった。しかし、日本に暮らした経験がある美也子さんは東京都出身だったため、山がある田舎に住んだ経験はなく、特に行きたいと思う田舎はなかった。そこで思い出したのが、7年前に美也子さんの両親に誘われて訪れた丹波市だ。

 

私の両親は神戸市出身で、丹波地域への移住を検討していました。そこで当時、丹波市青垣地域にあった田舎暮らし体験施設「かじかの郷」に宿泊体験をするから、一緒に来てみないかと言われて訪れたことを思い出したんです。

 

 

 

今は閉鎖してしまった田舎暮らし体験施設「かじかの郷」。丹波市の古民家に宿泊できるとして人気を集めていた施設に、両親と一緒に泊まったことがあった。

 

 

かじかの郷に宿泊した時、丹波市の美しい景色と人々が良い方ばかりだったことが印象的でした。移住するなら丹波市が良いのではないかと思い、美也子に提案してみました。

 

ちょうど二人の娘も当時4歳と7歳で、環境が変わったとしてもまだ適応しやすい年齢なので、移住するのにも今なら大丈夫だろうと思ったという。むしろこの時期を逃せば、日本に馴染むのが難しいかもしれないとも感じ、丹波市への移住を決意した。

 

 

 

 

 

「今」がタイミング。家族4人で日本、丹波市へ移住

 

 

日本、まして田舎の丹波市への移住は、グラハム家にとって大冒険だった。ジェームスさんは当時、日本語を話せていたわけではなく、移住を考え始めてから徐々に学び始めた。子どもたちも日本語は限られた単語を知っているだけで、ほとんど話せない。丹波市で英語を話す人は都会に比べて少ないことも、容易に考えられた。

 

 

日本の田舎出身でイギリスに住んでいた友人にも、田舎暮らしは大変だからやめておいた方がいいって言われました。私たちはビジネスプランがあったわけでもないし、その他の友達にも、なぜ移住にこだわるの?と。そんなに甘くないよと言われたこともありました

 

 

 

問題や困難なことがあることは、いくらでも考えられる。しかし二人は「今行かないと後悔するかもしれない」という思いが強かった。

 

 

もし今というチャンスを逃したら、次は60〜70歳になった時かもしれない。だけど、70歳になってから自分たちで森をメンテナンスしたり家を改装したりするのは、今よりもっと大変になります。とにかくやってみよう、何ができるか見てみよう、という気持ちが大きかったです。

 

こうして、2022年4月にグラハム夫婦は2人の娘を連れて、丹波市に移住したのだ。

 

 

 

インターナショナル家族の丹波市暮らしがスタート

 

 

 移住で最も重要視されるのは住まいと仕事だが、幸いなことに美也子さんは完全リモートワークで働ける職を見つけることができた。

 

 

2020年に勤めていた職場が新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で、早期退職者を募っていたため私もジェームスもそこで退職しました。私は保険会社に転職。1年ほど勤めて仕事に慣れてきた段階で、ジェームスから日本に移住しないかと提案を受けたんです。仕事も辞めなければならないと思っていたので、安定した生活から一転、大冒険になると悩んだこともありましたが、チャレンジしてみようと思いロンドンの職場に辞表を出しました。その時、日本の会社で働けるかもしれないと、会社から提案をいただけたのです。

 

 

 

こうして幸運なことに、丹波市に移住した後もリモートワークができる可能性が出てきて、生活を安定させることができる兆しが見えてきた。

 

移住当初は、美也子が大変だったのではないかと思います。言語の面でも日本語を話せるのは家族の中で美也子だけだったので、手続き関係は全て彼女にお願いしなければならず、私を含めて3人、子どもがいるようなものだったのではないでしょうか。(笑)

 

長女は公立の小学校に、次女は子ども園に通った。最初は日本語が話せなかった子どもたちだが、先生や周りの献身的なサポートがあり徐々に日本の暮らしにも慣れ、今や丹波市の方言まで話すようになったという。ジェームスさんも日本移住を決意してから勉強を始め、今では会話の半分が聞き取れるようになった。

 

 

学校は、英語を話せる先生がサポートしてくれました。他の先生も身振り手振りでサポートしてくださるので、本当に助かっています。私たちが住んでいる青垣地域は、皆さんがとてもフレンドリーで気にかけてくれる人が多く、地域に馴染むのにも時間はかかりませんでしたね。

 

 

 

 

 不安も多かった丹波市での暮らしだが、周りの人のサポートもあってか、スムーズに過ごすことができている。しかし思いのほか困難だったのは、古民家と山を見つけることだった。

 

 

 

想像以上に難しい古民家と山探し

 

 

イギリスに居た時から空き家を紹介している、丹波市移住・定住ポータルサイトの「Turn Wave」で古民家を探していたが、実際に手に入れるまではなかなかスムーズには行かなかった。

 

 

自分たちの目で見たいというのもあったため、想像以上に難航しました。空き家はたくさんあるんです。しかし住める状態のものが少なかったり、誰が持ち主かわからないということもあったり…。一旦アパートを借りてそこに住み、理想の家を探し続けました。

 

 

 

50年以上も放置されていて、今にも崩れそうな空き家などを含めれば、空き家はどこにでもある。しかし、すぐに住めそうな古民家はほぼなく、あってもすでに改築されていたりと理想的ではない。また、家族の人数や理想の環境、そして何よりグラハム家の移住した目的である森林も一緒に購入することを考えると、なかなか条件が合う物件と巡り合うことができなかった。

 

 

 

最終的にはイギリスでもインターネットでチェックしていて、一番最初に内見をしに行った築およそ130年の古民家に決めました。そこには畑と小さな森林もついています。私は今、フリーランスで英語コーチングをしているのですが、並行してこれから大工さんの力を借りつつ家のリノベーションを、そして森林や畑の準備を始めようと思います。

 

 

自分たちのペースで森を楽しい遊び場に

 

 

古民家とともに手に入れたこの小さな森林は、何年も整備がされておらず、草が伸び切っていて、中に入ることすら困難な状態だそうだ。

 

 

 

 

まずは中に入れるようにメンテナンスをしたいですね。今は中に踏み入れられず、サイズすらよくわからない状態です。日本の森はイギリスとはまた違うと思うので、学びながら歩ける道を作り、そして将来的には、森林を活用した英語のアクティビティなどをできるようにしたいと考えています

 

日本の英語教育だと、カバーできないところがまだまだたくさんある。今も英語のレッスンを開きながら、生徒が何に興味を持っているかや英語を学ぶ目的などを聞き、それをどう自分がサポートできるか模索しているという。

 

 

一回訪れただけで、それ以外は全く知らずに移住した丹波市ですが、今のところ楽しく過ごしています。ご飯もおいしいですしね!残念ながら、丹波地域への移住を希望していた母は亡くなってしまい、古民家を見せてあげることはできませんでしたが、両親が繋いでくれたご縁のおかげでここに住むことができました。

 

 

 

 

今や知り合いも増えて、丹波市のコミュニティにも溶け込んでいるグラハム家。森林や古民家の再生には、時間がかかるかもしれない。しかし、森林を大切に活用していくことを体現していきながら、自分たちに何ができるか今後も模索したいと、希望に満ち溢れていた。次回、グラハム家に会った時には、彼らの森林から人々の笑い声が聞こえてくるような空間になっているかもしれない。そして彼らが起こした一歩と森林への思いが、緑豊かな日本中に広まっていくことを願っている。

取材スタッフも今回はじめてお会いし、お話を聞かせて頂いたグラハムさん。お二人の明るく素敵なお人柄もそうですが、丹波市が抱える課題について興味や知見をお持ちであることも良いマッチングだったんだなと感じました。お子様も含めて、とても地域に溶け込んでおられる様子で、じっくりとご家族の理想の暮らしを形づくっていかれるのだろうなと感じるインタビューでした。