移住者インタビュー

Vol.17 / 2016.08.26

菌と日本酒を溺愛する男

本間速(26)さん

 

本間速(ほんまはやて)さんは、1990年4月に兵庫県神崎郡で生まれ、
高校卒業後、西山酒造場に就職し丹波市に移住してきました。

高校の頃から化学が好きで、あることをきっかけにお酒に興味を持ち、
そのままお酒の道へ進むことを決意しました。

 

「お酒の人」と呼ばれる、お酒大好きな本間さんにTURN WAVE取材班はその生態へと差し迫ることにしました。

 

【取材班】 こんにちはー

【本間さん】 あ、こんにちは!

 

 

【取材班】この辺に、通称”お酒の人”と呼ばれる若者がいると聞いて来たのですが…

【本間さん】はい、たぶん僕のことだと思います。

というか、事前にアポをもらっていたのでご存知のはずですよね

【取材班】そうでしたね

 

西山酒造場について

 

【取材班】西山酒造場ってどういうことをしている会社なんですか?

【本間さん】酒蔵なので、基本的にはお酒を作って販売している会社なんですが、

それ以外にもいろいろチャレンジをしている会社です

【取材班】チャレンジというと?

【本間さん】酒蔵って新しいことを嫌う傾向にあるんですけど、

西山酒造場は社長が”西山酒造場は発酵革命企業だ”と朝礼で言うぐらい挑戦的です。

お酒だけじゃなく、お酒の発酵を利用して甘酒ヨーグルトを開発したり、

僕の関わったプロジェクトでいうとプレミアム石けんを作ったりもしました。

とにかく、お酒造りという枠組みにとらわれずに、

どんどん新しいことをしている会社なんですよ。

 

【取材班】酒蔵なのに石けんを作るとか、チャレンジングですねー。

でも、お高いんでしょう?

【本間さん】5000円です

【取材班】なるほど、ノーコメントで

 

どんなことをしているの?

【取材班】今、本間さんは西山酒造場でなにをしているんですか?

【本間さん】肩書としては『杜氏見習い』というものをしています。

酒蔵の日本酒づくりの最高責任者のことを杜氏と言って、

その下に副杜氏や蔵人といった役職の人がいたりもするんですが、

僕は杜氏見習いという肩書でやっています

【取材班】ではいつかは杜氏になるわけですね

【本間さん】なれたらいいですね

【取材班】具体的にはどんなことを?

【本間さん】最近は営業を中心に活動をしています。

以前は主に酒を作っていたのですが、

社長に「実際にお客さんと接さないと、どういうものが望まれているかわからない」と言われ、

たしかにそうだなと思って営業をしています

【取材班】どれぐらいの期間、お酒を作っていたんですか?

【本間さん】就職してから丸5年間、ずっと酒造りをしていました

【取材班】あ、高校卒業後に就職していたわけだから、

そんなに長く酒造りをしていたことになるんですね

【本間さん】そういうことですね。

営業は去年(2015年)の4月からずっとやってます。

お客さんの顔を見ずに酒造りだけをしていたら見えなかったものがありましたね。

営業はまだしばらく続くかと思います

 

小鼓≠こづつみ

【取材班】そういえば、どうして”こづつみ”に興味を持ったんですか?

【本間さん】ちょっとまってください

【取材班】えっ、急になに?こわっ

 

【取材班】ん??

 

【取材班】う、うわぁぁ〜〜〜〜!!!(痙攣)

 

【本間さん】”こづつみ”じゃなくて”こつづみ”です!

【取材班】どうりで”こづつみ”で一発変換できないわけだー!!

 

【取材班】その節は本当に申し訳ございませんでした!!!

【本間さん】いや、そんなに謝られるほどのことではないんですけどね。

よく間違えられるんですよ

【取材班】あ、そうなんですね。では気を直して…

【本間さん】(気持ちの切り替えが早い!)

 

どうして西山酒造場に?

【取材班】本間さんはどうして西山酒造場で働こうとしたのですか?

【本間さん】日本酒を作りたかったんですよね

【取材班】それって、高校生のときですよね。

お酒も飲めないのに日本酒を作りたいって、

相当変態…じゃなくて、奇特な方なんですね

【本間さん】もともとは日本酒が好きというより、

発酵という仕組みと微生物が好きなんです。

『もやしもん』という漫画の影響も大きかったです

 

※もやしもんとは、菌が肉眼で見える主人公が農業大学を舞台に、菌や大学の仲間とともに大学生活をエンジョイする漫画。菌に関する知識や見解がところどころに詰め込まれている。

 

【取材班】私も読んでました。あの漫画、面白いですよね

【本間さん】面白いんですよ。

微生物に興味を持っていた高校2年のときにもやしもんに出会いました。

発酵物っていろいろあるんですが、

そのなかで母親が大の日本酒好きなこともあって、

日本酒の魅力を知りたいなと思いました

【取材班】なるほど、お母さんが日本酒好きだったんですね

【本間さん】そうなんです。

その当時って、”日本酒はオヤジが飲むもの”というイメージがあって、

日本酒のイメージが悪かったんです。

でも、もやしもんや美味しんぼという漫画を読んでいると日本酒の評価って高いんですよね。

それがうまく伝わってないだけで本質的にはいいものだと思ったので、

それを伝えていきたいと思いました

【取材班】あー、たしかに日本酒のイメージってオヤジが飲むものとか、

渋いというイメージがありますね

【本間さん】そんなことを考えていた高校の時に、

好きな課題に取り組める授業があったんですけど、

その時に先生に「お酒を作りましょう」と直談判に言ったら

「お酒を作るには免許が必要で一朝一夕で作れるもんではない」と言われました。

そのあとにいろいろ調べて、授業の一環で作るのは問題ないということがわかったんです。

【取材班】おお、それで日本酒づくりの授業ができたと…

【本間さん】いや、「お前のためだけにできるか!!」と言って怒られて、結局できませんでした

【取材班】せっかくいっぱい調べたのに

【本間さん】はい。だからもう、高校卒業してから日本酒の道に進むことを決めました

【取材班】そして就職活動をして、西山酒造場に就職したと

【本間さん】そうなんです、とはいえ、そこに到るまでにもいろいろあったのですが

 

母の力

【取材班】すぐに西山酒造場に決めたわけではないと

【本間さん】そうなんです。当初は、地元の姫路の酒蔵を探していたんですが、

就職先として、酒蔵がなかったんです。

それで、母親に「酒造に務めるのを諦めるわ」と言ったら、目が死んでいました

 

【取材班】相当ショックだったんですね

【本間さん】当初、「絶対酒蔵に務める」と言っていたので余計に。

そしたら母親が必死になって酒蔵を探してくれました。

それで西山酒造場が見つかったのですが「求人はやってない」と言われました。

でもそこで母親が必死に自分のことをPRしてくれてなんとか面接にこぎつけることに成功したんです

【取材班】お母さんすごいですね

 

仕事の取り組み方

【取材班】実際に西山酒造場で働いてみてどうでした?

【本間さん】菌がめっちゃかわいいですね

 

【取材班】はあ

【本間さん】もう、とにかく菌ってひたむきなんですよ。

彼らは純粋な行動として麹に菌糸を伸ばしていくとか、

それだけのために全力なんです。

仕事で失敗したとか、傷ついたときとかに菌が発酵した姿を見るととても元気が出ます

【取材班】すみません、何をおっしゃっているのかよく分かりません

【本間さん】大丈夫です、よく言われます

 

【本間さん】百聞は一見にしかずなので、見てみて下さい

【取材班】うわ、すごいですねこれ、初めて見ました

【本間さん】ぶくぶく泡が出てきていますけど、これ菌の仕業なんです

【取材班】へー!これだけ泡が出ていたら、菌が生きてるってわかりますね。

たしかにずっと見ていられそう

【本間さん】ふふ、あなたも、菌の魅力に気づいてしまいましたか

【取材班】悔しいけど、ちょっといいなと思ってしまいました

 

 

【本間さん】まあ、それ以外に西山酒造場で働いてみて、

日本酒は本当に素晴らしいものだなということがわかりました。

日本酒を飲んでくれている人から「ありがとう」と言ってもらえるように、

より良い日本酒を作っていきたいと考えるようになりました

【取材班】人に喜んでもらうために、がんばる。素晴らしいですね

【本間さん】丹波市の土砂災害で西山酒造場も浸水して、

土砂よけに1ヶ月ぐらいかかったのですが、

総勢約2000人がボランティアに来てくれたんです。

そのときに「小鼓待ってるからな」と言ってくれて、すごく嬉しかった。

この人たちのために、美味しいお酒を作りたいと思いました

【取材班】地元の人とのふれあいの中で、働く意義を見いだせることもあるのですね

 

【取材班】仕事以外での取り組みはどうですか?

【本間さん】丹波市に移住してきて、お酒を通じてたくさんの人に出会うことができました。

今僕は”菌倶楽部”という菌好きの人が集まるコミュニティに所属しているのですが、

その中での人との関わりは、自分の中での知見が広がります

【取材班】会社だけじゃなく、丹波市のいろいろな人との関わりを増やして知識を増やしているわけですね

 

チャレンジ

【取材班】これまでしてきたチャレンジってどんなことがありますか?

【本間さん】西山酒造場で働き出してからずっとチャレンジの連続でした。

そういう社風というこもあって、いきなり東京に1ヶ月行って、

何もない状態で「仕事とってこいよ」と言われ営業に放り出されたり、

化粧品の知識がないにも関わらず化粧品開発のプロジェクトチームに加わったり。

あと、通信制の大学に通ったのも自分の中では大きなチャレンジでした。

いろんな新しいことに取り組みたいという気持ちがあったので、

いろんなことに挑戦させてもらえるというのは大きかったですね

【取材班】だってなんかもう、挑戦しすぎているせいかすごく大人びてるししっかりしてますもんね

【本間さん】そうですかねー

【取材班】しかも結婚されてるんですね

【本間さん】そうなんです。21歳の時に出会って、24歳で結婚しました。

子どももいます

【取材班】子どもも!?そりゃしっかりしてはりますわ

 

 

【取材班】本間さんがこれからチャレンジしていきたいことってなんですか?

【本間さん】日本酒の魅力をもっとたくさんの人に知ってほしいと思っています。

営業という立場を利用して、その間にたくさんのファンを増やしていきたいです。

今は日本酒が少しブームになっていますが、

このブームを一過性のもので終わらせてはいけないと思っていて、

それを文化にして生活の中に定着させていかなければいけないんですよね

【取材班】具体的にはどうやって定着させていくのでしょうか?

【本間さん】1つは気軽に地酒を買える場所を増やす、ということですね。

丹波市内外、東京のほうでももっと小鼓を置きたいです。

ほかには、日本酒だけじゃなくノンアルコールの商品も売っていって、

子どもやお年寄りでも飲めるようにしたいです

 

 

お世話になった人たち

【取材班】お世話になった人やコミュニティはありますか?

【本間さん】それはもう、西山酒造場さまさまです。

こんなに僕を成長させてくれる酒蔵なんて、

日本にはないんじゃないかと思っています。

西山酒造場には返しきれない恩を感じてます。

高校卒業後の何もできなかった自分を、

社長や杜氏がここまで育ててくれたんです

【取材班】わあ、西山酒造場への想いが強すぎてびっくりしました

【本間さん】お世話になった人でいえば、僕の両親です。

母はさっき話したとおり、僕が夢を叶えるのを応援してくれました。

実は父にもお世話になっていて、

実家が代々米農家なのですが、

4年前ぐらいに父が「酒米を作ろうと思うわ」と言って、

西山酒造場で使う山田錦を作ってもらってるんです

【取材班】めっちゃ応援してもらってるじゃないですか!

【本間さん】そうなんです。

あと、嫁も結婚したときに社員食堂の立ち上げに関わってもらいました。

嫁にもいつもお世話になってます

【取材班】いろんな人の手助けのおかげで、今の本間さんがいるわけですね

 

【取材班】本間さん、取材を受けていただきありがとうございました。

最後に、本間さんの人生の転機をTRUN WORDSと共に教えて下さい

【本間さん】わかりました!

 

【TURN WORDS】

「あの時あんたを諦めさせたらあかんと思った」

僕の言葉じゃないんですけど、この言葉が人生の転機でしたね。

突然西山酒造場に電話してくれた母親も、それを受け入れてくれた社長も、そのおかげで今の僕がいます。


 

好きなこと、本当にやりたいことを貫き通し続けるのはとても難しいことだと思います。

しかし、1人では無理なことも周りの理解と協力があればきっと成し遂げられるのではないでしょうか。

本間さんの取材を経て、丹波市が好きなことをしたいと願う人たちの夢を叶えられる場所であることをうっすらと感じました。