小さな村を農業で救う男
横山湧亮 (25)さん
丹波市の端っこにある山南町。そのさらに端っこの山奥を進んだところにおよそ13世帯が集まる小さな集落があります。その名も『笛路村』
そんな村に魅了された1人の奇抜な(?)青年が彼、横山湧亮さんでした。
横山さんは大阪府羽曳野市から2014年3月末に丹波市に移住し、通っていた大学院を休学しながら丹波市のシェアハウスに住んでいました。2015年4月に丹波市の笛路村に拠点を移し、そこで新規就農を目指すため現在は兵庫県立農業大学校で農業の研修を行っています。
なぜそんな小さな村に魅了されたのか?これからどんなことをやろうとしているのか?そもそも横山さんってどんな人なのか??そんな謎を解明すべく、取材班が向かったのが兵庫県立農業大学校。横山さんはそこで野菜の収穫をしている最中でした。
「すみません、このあたりに奇抜な青年がいると聞いたのですが」
ということでとうとうそのベールを脱いだ横山さん。なぜ彼は笛路村で農業をすることを選んだのか?謎を解明していきましょう!
化学と実験が好きな農家見習い
「農業の研修をしてるんですよ。これから笛路村で新規就農をするつもりなんですけど、そのための勉強をここでやってるんです。栽培技術から販売、経営計画の立て方まで、ここで勉強できるんです。今は、作った野菜を収穫してるんですよ」
そう言いながら採れたてのピーマンを見せてくれた横山さん。農業の似合う爽やかイケメンである。
「よかったら食べてみます?採れたてなのでおいしいですよ」
う、うまい!!
あれ?ピーマンってもっと苦くなかったっけ…?
苦味をほとんど感じない!
「まだまだ農業も始めたばかりなので、上手くできてるかはわからないですけど」
「いや、十分おいしいですよこれ!始めたばかりでこんな美味しいのができるんですか?」
「うーん、農業自体は始めたばかりなんですけど、もともと実験とか化学とかが好きで、大学では化学の研究をしていたので、農業は割と性に合ってるのかなと思ってるんですよね」
「あ、そうだ、今フルーツピーマンっていう甘いピーマンも作ってるんですけどよかったら食べます?」
辛—————!!!!
「うわーーー!!!!!口の中が本能寺の変やーーー!!!!」
おちゃめな一面を見せる横山さん。聞くところによると、横山さんは人を驚かせる目的のためにこのハバネロを栽培しているのだとか。農業ならではのドッキリ企画。まんまとはめられてしまいました。
「少ししか入れないものを丸かじりさせるのってどうなんですか!(苦笑い) と、とりあえず話を本題に戻して、そもそも横山さんってなんで農業を始めようと思ったんですか?」
自分で作ったもので喜んでもらう幸せ
「基本的に昔からずっと思い描いていたものがあって、それが『ものをつくって提供することで誰かに喜んでもらいたい』というものだったんです」
「最初から”農業やろう!”と思ったわけではなくて、最初は食品の研究をして食品開発をしたいなと思ってたんですけど。気が変わって、田舎の自然の中で働きたいと思うようになったんです」
何もないからこそ生まれる人との深い関わり
「大学院の修士1年のときに、東北のボランティアに行ったんですよ。そこで価値観ががらっと変わりましたね。それまではずっと部屋にこもって研究をしていたんです。それはそれで楽しかった。でもその一方で、家でテレビや新聞を読んでいたら、少子高齢化とか、うつ病とか、自分の分野とは全然関係ない問題が世の中で起こっていて、うまく表現できないんですがなんか違和感を覚えたんですよね」
「自分のやってることが世の中の役にたってるのかなー?みたいな感じですか?」
「うーん、どうなんでしょう。なんか、誰かに生かされてるんだなって感じがしてきたんです。だから、部屋にこもって研究ばっかりするんじゃなくて、外に出てみようと思って、東北へボランティアに行ったんです。」
「ボランティアしに行ったつもりだったのに、帰ってきたらなんか心が満たされてめちゃくちゃ楽しかったんですよね。電気もガスもインフラもない状況で、逆に人との関わりが密になって、普通では味わえない人との関わりの楽しさを知ることができたんです」
「なるほど、人との関わりの楽しさを味わうために、あえて何もない笛路村という場所に移住したんですね」
若者が農業をしないと日本の未来がヤバイと思った
「笛路村に移住した理由はわかったのですが、農業をやるきっかけは何だったんですか?」
「修士1年のときに東北のボランティアに行ったと言いましたが、また別の目的で徳島に農業インターンに行ったことがあったんです。そしたら、もうなんか腰が直角に曲がったおばあちゃんとかがレンコンを採ってたんですよ」
「直角ですね。鋭角のおばあちゃんもいますよ。それを見て『あ、これ10年後には日本から食料なくなるぞ』と思ったんですよね。もっと若い人たちが農業に携わっていかないと、日本の未来がヤバいと思ったから、いつか将来農業に関わることをしたいと思ったんです。それと同時に、自分の目で課題を見ないといけないなとも思いました。」
「ということで僕は修士1年で、東北で幸せについて学び、徳島で農業の大切さを学んだわけです」
人生最大のチャレンジ、後悔はなし
「理由はいろいろあるんですが、東北と徳島に行って価値観が変わったことは大きかったですね。研究者になりたくて大学院に行ったんですが、それ以上にやりたいことができたんです。あと、大学院の2年目ってほとんど就活で終わるんですよね。だから1年で学ぶことを全部学んで、1年休学してから辞めました」
「東北と徳島の経験は、横山さんにそれほど大きな影響を与えたんですね」
「周りからも結構反対はあったんですけどね。でも辞めました。後悔も全然してないです。たぶん、僕のこれまでの人生の中で一番のチャレンジだったと思います」
笛路村の価値を高めるための挑戦
「たしかに、なかなか決断のいることですもんね。これまでの一番のチャレンジがそれだということで、じゃあこれから横山さんがチャレンジしていきたいことってありますか?」
「笛路村に住んでいると、どんどん笛路村のことが好きになっていったんです。一方で、この村はいつまでこの景観を保ち続けられるのだろうと考えた時に、自分が村の中に入って活動する必要があるのではないかと思いました。だから僕は農業で笛路村の価値を高めていくことにチャレンジします」
「本当に笛路村が好きなんですね。笛路愛がビシビシと伝わってくるようです。具体的にはどんなことをしたいのですか?」
「笛路村をブランディングして、たくさんの人に来てもらって楽しんでもらいたいですね。個人的にやりたいのは、学生さんのキャリア支援です。僕自身がボランティアなどに行って価値観がガラッと変わったので、笛路村で農業インターンをしたいと思っています」
「なるほどー、横山さん自身が体験したあの人生の転機を、他の学生さんにも体験してもらうわけですね。そういえば、研修、農業、バイト、イベントなどなど、毎日忙しくないですか?」
「毎日朝から晩まで動きっぱなしですけど、すごく楽しいから全然動き続けられます。健康って、肉体じゃなくて精神なのだなと思いました。精神さえ前向きなら肉体的に大変でも全然楽です」
自宅でバーベキューのイベントを開催した横山さん。畑で採れた野菜をみんなに振る舞います。
移住をするなら吟味して
「そうそう、この取材、移住者に向けた記事を書くので、横山さんから田舎への移住希望者に何かアドバイスなどがあれば教えてほしいです」
「移住って、勢いで来ちゃう人も多いですけど、いろいろな地域を回って吟味したほうがいいと思います。移住定住するときに一番やってほしいなと思うのは、その地域に週1ぐらいで1年間ぐらい通ってみることですね。地域の人って、外からのお客さんに対しての振る舞いと、地域の中にいる人に対しての振る舞いが全然違うことがありますから。僕も笛路村には、丹波市のシェアハウスに住みながら1年間かけて通っていたので」
「横山さん、ありがとうございました!移住希望者のみんな、参考になったかな?」
プレゼント
「こちらこそ、ありがとうございました。あ、そうだ、これ持って行って下さい」
「ありがとうございます。誰かにプレゼントしてあげたいと思います」
自分の好きな場所で、自分の好きなことに全力で取り組む横山さん。そんな横山さんの前向きな姿を見ていると、取材班もとても勇気づけられました。
新規就農に取り組む新進気鋭な横山さんは、これから丹波市にどんな新しい風を吹き込むのでしょうか。丹波市の農業の未来は明るいぞー。
【TURN WORDS】
「電気もガスもインフラもない状況で、逆に人との関わりが密になって、普通では味わえない人との関わりの楽しさを知ることができたんです」
どんどん便利になっていく世の中で薄れていく人と人とのコミュニケーション。あえて何もない田舎で過ごすことでしか得られない”人と関わる楽しみ”は横山さんにとって筆舌しがたい幸せを生み出しているのかもしれません。
「すみません、このあたりに奇抜な青年がいると聞いたのですが」
ということでとうとうそのベールを脱いだ横山さん。なぜ彼は笛路村で農業をすることを選んだのか?謎を解明していきましょう!
化学と実験が好きな農家見習い
「農業の研修をしてるんですよ。これから笛路村で新規就農をするつもりなんですけど、そのための勉強をここでやってるんです。栽培技術から販売、経営計画の立て方まで、ここで勉強できるんです。今は、作った野菜を収穫してるんですよ」
そう言いながら採れたてのピーマンを見せてくれた横山さん。農業の似合う爽やかイケメンである。
「よかったら食べてみます?採れたてなのでおいしいですよ」
う、うまい!!
あれ?ピーマンってもっと苦くなかったっけ…?
苦味をほとんど感じない!
「まだまだ農業も始めたばかりなので、上手くできてるかはわからないですけど」
「いや、十分おいしいですよこれ!始めたばかりでこんな美味しいのができるんですか?」
「うーん、農業自体は始めたばかりなんですけど、もともと実験とか化学とかが好きで、大学では化学の研究をしていたので、農業は割と性に合ってるのかなと思ってるんですよね」
「あ、そうだ、今フルーツピーマンっていう甘いピーマンも作ってるんですけどよかったら食べます?」
辛—————!!!!
「うわーーー!!!!!口の中が本能寺の変やーーー!!!!」
おちゃめな一面を見せる横山さん。聞くところによると、横山さんは人を驚かせる目的のためにこのハバネロを栽培しているのだとか。農業ならではのドッキリ企画。まんまとはめられてしまいました。
「少ししか入れないものを丸かじりさせるのってどうなんですか!(苦笑い) と、とりあえず話を本題に戻して、そもそも横山さんってなんで農業を始めようと思ったんですか?」
自分で作ったもので喜んでもらう幸せ
「基本的に昔からずっと思い描いていたものがあって、それが『ものをつくって提供することで誰かに喜んでもらいたい』というものだったんです」
「最初から”農業やろう!”と思ったわけではなくて、最初は食品の研究をして食品開発をしたいなと思ってたんですけど。気が変わって、田舎の自然の中で働きたいと思うようになったんです」
何もないからこそ生まれる人との深い関わり
「大学院の修士1年のときに、東北のボランティアに行ったんですよ。そこで価値観ががらっと変わりましたね。それまではずっと部屋にこもって研究をしていたんです。それはそれで楽しかった。でもその一方で、家でテレビや新聞を読んでいたら、少子高齢化とか、うつ病とか、自分の分野とは全然関係ない問題が世の中で起こっていて、うまく表現できないんですがなんか違和感を覚えたんですよね」
「自分のやってることが世の中の役にたってるのかなー?みたいな感じですか?」
「うーん、どうなんでしょう。なんか、誰かに生かされてるんだなって感じがしてきたんです。だから、部屋にこもって研究ばっかりするんじゃなくて、外に出てみようと思って、東北へボランティアに行ったんです。」
「ボランティアしに行ったつもりだったのに、帰ってきたらなんか心が満たされてめちゃくちゃ楽しかったんですよね。電気もガスもインフラもない状況で、逆に人との関わりが密になって、普通では味わえない人との関わりの楽しさを知ることができたんです」
「なるほど、人との関わりの楽しさを味わうために、あえて何もない笛路村という場所に移住したんですね」
若者が農業をしないと日本の未来がヤバイと思った
「笛路村に移住した理由はわかったのですが、農業をやるきっかけは何だったんですか?」
「修士1年のときに東北のボランティアに行ったと言いましたが、また別の目的で徳島に農業インターンに行ったことがあったんです。そしたら、もうなんか腰が直角に曲がったおばあちゃんとかがレンコンを採ってたんですよ」
「直角ですね。鋭角のおばあちゃんもいますよ。それを見て『あ、これ10年後には日本から食料なくなるぞ』と思ったんですよね。もっと若い人たちが農業に携わっていかないと、日本の未来がヤバいと思ったから、いつか将来農業に関わることをしたいと思ったんです。それと同時に、自分の目で課題を見ないといけないなとも思いました。」
「ということで僕は修士1年で、東北で幸せについて学び、徳島で農業の大切さを学んだわけです」
人生最大のチャレンジ、後悔はなし
「理由はいろいろあるんですが、東北と徳島に行って価値観が変わったことは大きかったですね。研究者になりたくて大学院に行ったんですが、それ以上にやりたいことができたんです。あと、大学院の2年目ってほとんど就活で終わるんですよね。だから1年で学ぶことを全部学んで、1年休学してから辞めました」
「東北と徳島の経験は、横山さんにそれほど大きな影響を与えたんですね」
「周りからも結構反対はあったんですけどね。でも辞めました。後悔も全然してないです。たぶん、僕のこれまでの人生の中で一番のチャレンジだったと思います」
笛路村の価値を高めるための挑戦
「たしかに、なかなか決断のいることですもんね。これまでの一番のチャレンジがそれだということで、じゃあこれから横山さんがチャレンジしていきたいことってありますか?」
「笛路村に住んでいると、どんどん笛路村のことが好きになっていったんです。一方で、この村はいつまでこの景観を保ち続けられるのだろうと考えた時に、自分が村の中に入って活動する必要があるのではないかと思いました。だから僕は農業で笛路村の価値を高めていくことにチャレンジします」
「本当に笛路村が好きなんですね。笛路愛がビシビシと伝わってくるようです。具体的にはどんなことをしたいのですか?」
「笛路村をブランディングして、たくさんの人に来てもらって楽しんでもらいたいですね。個人的にやりたいのは、学生さんのキャリア支援です。僕自身がボランティアなどに行って価値観がガラッと変わったので、笛路村で農業インターンをしたいと思っています」
「なるほどー、横山さん自身が体験したあの人生の転機を、他の学生さんにも体験してもらうわけですね。そういえば、研修、農業、バイト、イベントなどなど、毎日忙しくないですか?」
「毎日朝から晩まで動きっぱなしですけど、すごく楽しいから全然動き続けられます。健康って、肉体じゃなくて精神なのだなと思いました。精神さえ前向きなら肉体的に大変でも全然楽です」
自宅でバーベキューのイベントを開催した横山さん。畑で採れた野菜をみんなに振る舞います。
移住をするなら吟味して
「そうそう、この取材、移住者に向けた記事を書くので、横山さんから田舎への移住希望者に何かアドバイスなどがあれば教えてほしいです」
「移住って、勢いで来ちゃう人も多いですけど、いろいろな地域を回って吟味したほうがいいと思います。移住定住するときに一番やってほしいなと思うのは、その地域に週1ぐらいで1年間ぐらい通ってみることですね。地域の人って、外からのお客さんに対しての振る舞いと、地域の中にいる人に対しての振る舞いが全然違うことがありますから。僕も笛路村には、丹波市のシェアハウスに住みながら1年間かけて通っていたので」
「横山さん、ありがとうございました!移住希望者のみんな、参考になったかな?」
プレゼント
「こちらこそ、ありがとうございました。あ、そうだ、これ持って行って下さい」
「ありがとうございます。誰かにプレゼントしてあげたいと思います」
自分の好きな場所で、自分の好きなことに全力で取り組む横山さん。そんな横山さんの前向きな姿を見ていると、取材班もとても勇気づけられました。
新規就農に取り組む新進気鋭な横山さんは、これから丹波市にどんな新しい風を吹き込むのでしょうか。丹波市の農業の未来は明るいぞー。
【TURN WORDS】
「電気もガスもインフラもない状況で、逆に人との関わりが密になって、普通では味わえない人との関わりの楽しさを知ることができたんです」
どんどん便利になっていく世の中で薄れていく人と人とのコミュニケーション。あえて何もない田舎で過ごすことでしか得られない”人と関わる楽しみ”は横山さんにとって筆舌しがたい幸せを生み出しているのかもしれません。