移住者インタビュー

Vol.7 / 2015.11.26

野遊び研究家マリオさん

山崎 春人さん

 

山崎 春人さん

オレンジのヘルメットは「森林ボランティア」をするときのマリオさんのトレードマーク。

「マリオさーん」
小さな子どもの声が森の中まで響いてくる。近くの保育園の園庭で遊んでいる子どもたちだ。そこから、森の中で活動する姿が見えたのだろう。
「やっほー」
木々を通して、マリオさんが返す。
マリオさん。郵便配達員さんにも「マリオさんのおうち」で通じるほどだけれど、本名は山崎春人。「マリオ」は、髭の生えた風貌がゲームキャラクターに似ているからとつけられた、野外活動時のニックネームだ。ちなみに奥さんは「ピーチさん」である。

恒松(以下、ツネ):こちらには十年あまり前に移住されてきたのですよね。丹波市を選ばれた理由は?
マリオさん(以下、マ):移住にあたっては、いろんな地域を見て回りました。そうした中で、ぴんと来たというのが正直なところ。移住者仲間と話していると、そういう、直感的な出会いって誰にもあるみたいです。また、この地域には広葉樹が多く、森との関わりが持てそうだというのもありました。

この地域に広葉樹が多いというのは、マリオさんの話を聞いて初めて気づいたことだった。もちろん、それまでも山は見ていた。緑が美しく、秋から冬にかけて、色を変えていくとは認識していた。
マリオさんの話を聞いて、あらためて新鮮な目で見ることができるようになって以降、「この地域の山は緑が深いな、スギやヒノキの植樹が多いんだな」とか、「ここは落葉樹が多いな、薪をとるなどの里山として使われていたんだろうな」なんて見方をするようになった。そうすると、秋にかけての紅葉が、まさに「山が錦に染まる」ものとして、いっそう楽しめるようになった。
マリオさんには、森林インストラクターという肩書があって、NPO団体である日本森林ボランティア協会の理事として、全国の森を守る活動もしている。だけど、丹波市で見かけるときの肩書は、「野遊び研究家」と表記されているときが多い。聞くと、これは自分で考え出した職業名だという。

この虫は何? この花は何? 子どもたちの質問にマリオさんはていねいに答える。

ツネ:この『野遊び研究家』という肩書は何をきっかけに付けられたのでしょうか?
マ:もともとは、幼児教育が専門なんです。特に体育系の。大学の幼稚園教諭養成の課程で教えたりもしています。その視点から見ると、現代の子どもたちには、身体を使った遊びが絶対的に欠けているなと。昔なら小さいうちから近所の子たちと野原で駆け回っていたのが、最近じゃ家の中でゲームばかりとか。これではいけないと思って、子どもたちに外遊びをしてもらいたいなというのが願いなんです。
ツネ:それで、野遊びを入口にしようと。
マ:ええ。たとえば森の中で遊ぶときは、切り株や石ころなど危険もあります。そういう危険に友だちを思いやりながら対処することを通して、思いやりを養ってほしい。また、今は飽食の時代ですが、いざ食料危機が来た時、どんな野草や木の実が食べられるか覚えておけば、生き延びられるでしょ(笑)。

丹波市に移住する前から「マリオクラブ」という親子の自然体験活動グループを主催してきたマリオさん。今の住居も、その会員さんたちと一緒に建てたという。
数年前からは、地元小学校のそばにある「大路こどもの森」を舞台に、月1回の「あそびの学校」を開催している。

子どもたちの心をわしづかみにするマリオさんの秘密兵器、実はおやじギャグだったりする。

ツネ:大路こどもの森での活動はどんなきっかけで?
マ:地元の有志で作っている『大路未来会議』という地域づくりグループがあるんですが、そこで子どもたちに体験活動が必要だという話をしていたとき、小学校のそばの山を所有していたメンバーが『じゃあうちの森を使いますか?』と提案してくれて。さっそく、地域の人たちと山の間伐などの整備から始めたのがきっかけです。
ツネ:大路未来会議というのはどういうグループですか?
マ:最近大路小学校区に移住してきた若い人たちが中心です。そこに、地元にUターンしてきた人たちなども加わって、10名ほどで活動しています。ただ、山の整備をするときは、こども園の理事をしている年配の方や、地域で古くから活動されてきた森林同好会の人たちなども加わってくれました。

大路未来会議のメンバーと過ごす森のひと時、作業合間の情報交換も楽しい。

マリオさんもまた、大路小学校の近くに住んでいる。大路未来会議では、ご意見番、あるいは良き指導者的な立場だ。「あそびの学校」では「校長」の役割を務め、春には野草を食べる、夏には川遊び、秋にはどんぐり探しなど、森や野原での体験を子どもたちに提供している。
大路こどもの森には、単純なターザンロープやブランコがあるくらいで、遊具が整備されているわけではない。子どもたちが創意工夫して遊びを作り出せばいいというマリオさんの考え方による。木に名前の表示をつけたりもしていない。名前を知るとそれでわかったつもりになって、樹皮に触れたり匂いをかいだりといった体験が浅くなりがちだからと、マリオさんは言う。
一方で、大路こどもの森には、ツリーハウスやアースバックハウス(土を固めた家)など、ユニークな建築物がある。

ツリーハウスのあるたもとで遊ぶ子どもたち。ツリーハウスは現在2棟。

ツネ:子どもたちがすぐ入れる裏山っていうのが理想と聞きました。
マ:ええ。整備された公園ではなく、日常の遊び場として森が使われてほしいですね。ツリーハウスは、間伐した木材を再利用しようと、大路未来会議のメンバーと地元の建築士さんで、月1回ずつの作業を1年余り続けて、自分たちで作りました。朽ちてきたら森に返せるようにがキーワードで、設備と言うより、そういう森の循環につながる作業を楽しくするための仕掛けですね。大人が森と楽しく関わっていると、その背中を見て子どもたちも育ちますから。
ツネ:アースバックも同じ考え方ですか?
マ:丹波市で活動されている関西大学佐治スタジオのメンバーがチャレンジしたいということで、場所を提供してワークショップを行って作っているものです。いわば土嚢袋を積み上げて作っていくスタイルなので、初心者にも作りやすい、自然素材の建築物を試してみようということで。

土嚢を積み上げたアースバックハウス。この後、土壁を上塗りしていく。

話を聞いていると、子どもたちへの豊かな体験というほかに、循環型の暮らしを実現したいという思いが見えてくる。

ツネ:大路未来会議のメンバーの願いは何ですか?
マ:談義の場では、エコタウンを作りたいなんて話が出てきます。先日までは都市部からいらした若い人たちと一緒に、『モバイルハウス』を作っていたんですよ。手軽に家が作れるなら、敷地さえあれば、ミニマルな暮らしができるんじゃないかと話していて。
ツネ:モバイルハウス?
マ:車輪がついて移動できる家ですね。広くはないですが、やはり地元の木材を利用して、作り上げました。

仕上がったモバイルハウスを運ぶメンバー。軽トラが活躍するのが田舎ならでは。

ツリーハウスにアースバックハウス、そしてモバイルハウス。なんだか「ハウス」づくしだ。マリオさんにそう指摘すると、「そういえばそうですね」と笑った。

ツネ:暮らしへのこだわりっていうことですかね。
マ:意識はしていませんでしたが、そうかもしれませんね。私たちはこれから、持続可能な暮らしを心がけていかなくてはいけない。この大路という地域が消滅しないためにも、自分たちが地域の資源を活かして楽しく生きることは大切です。家を組み立てるというのは、どういう形のものであれ、そういう循環型の暮らしの象徴みたいなものかもしれません。
ツネ:大路地域って、なんだかとても楽しそうです。
マ:地域の風習など、たいへんな面ももちろんありますが、要は自分がどんな暮らしをしたくて、どこを目指すかです。そういう意味では、豊かな自然環境とともに、新しいライフスタイルにチャレンジしたいという人が増えている実感はありますね。子どもたちのためにも、ぜひ、ここで一緒にやっていただけると嬉しいです。

 

大路未来会議、遊びの学校、こどもの森
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interview / writing:恒松智子