移住者インタビュー

Vol.4 / 2015.11.25

「生産する」くらしの豊かさを感じて

吉田貴美さん

吉田貴美さん

丹波市氷上町生まれ。進学・結婚等で京都府や富山県で過ごしたのち、2009年にご家族と共に帰郷。生まれ育った実家で日々の暮らしを楽しみながら、友人たちと共に子育てお散歩サークル「くりぼう会」を立ち上げる。
子どもたちが泥んこになったり手仕事をしたりと自然を感じる遊びを楽しみ、その母親もまた、ゆったりとした子どもとの時間やホッとできる語らいができる場。くりぼう会はゆっくりと口コミで広がり、現在20組程度の親子が所属している。

子どもと一緒に散歩するときが、「一番好き」と語る吉田さん

麻子(以下、麻):貴美さんは丹波生まれの丹波育ちですが、都会にいたころはどんな生活だったんですか?
貴美(以下、貴):京都市内の学校に進学して、はじめは周りの子にお洒落で可愛い子がいっぱいいたことにびっくりして。都会の生活は、きれいで、早くて、面白くて、かんたんで、便利で。そんな生活に夢中で、就職してからはお金も自分のために使えるし、レジャーや買い物が本当に面白くて、「消費することって楽しいー!」と思っていました。

吉田さん宅の薪置き場

麻:今の貴美さんと全然印象違いますね!
貴:今は、野菜でも、自分たちで作ったものを大切に食べたい。今うちでは作れない、たとえば肉とか魚とかは買うけれど、やっぱりちゃんと「命」として大切に育てられたものを買いたいと思ってます。きっかけは子どもを産んだこと。友達が出産時に助産院を紹介してくれて、深く考えずにそこで出産をしたんですが、そこで、今まで知らなかったことをいっぱい教えてもらいました。「胎教」って、私はそれまで音楽を聴くことくらいのイメージしかなかったんですが、食べ物自体を赤ちゃんが喜ぶ食べ物にして、環境を整えてあげることが胎教だよって教えてもらって。自分の使ったもの、化学物質を使ったものなどが赤ちゃんに与える影響とかも初めて知って。当時は本もたくさん読んで勉強して、考え方が180度変わってしまった感じです。
麻:そして、丹波に戻ってきたら…?
貴:「昔の暮らし」って大事やんと思ったんです。都会は消費する生活だったけれど、田舎は消費よりも「生産」する、生み出す機会の多い生活だと感じて。お店でも、何かを作ったり、生産するための道具などが取り扱われることが多くて。そういえば私も子どもの頃、周りの家族や大人が「何かを作る」過程を暮らしの中でたくさん見てきたと思いだしました。
食べ物も、出来上がったものをもらうんではなくて作っている過程を目で見て知っていたし、お風呂も薪で、父が薪を割って並べていくところを見ていたり、昔ものがなくて、人が自分たちの手でなんでも創り出していたころの生活を垣間見る機会が多かった子ども時代の記憶が残っていて。だから、何かがない時に「工夫する」こともできる。
出来上がったものに囲まれる都会の生活は、きれいで便利で効率的だけど、そのものが手に入らないときに困ってしまう。多少不便で手間はかかっても、人が本来もってる「生きていくための術」のようなものを、自分の暮らしの中に残しておきたいと考えるように なりました。

古道具が残る、昔ながらの「土間」の台所

麻:昔ながらの「生きていくための術」は、「くりぼう会」にも生かされてるなぁって感じます。
貴:餅つき大会をするときに、石臼で黄な粉をひいたり、寒い時期にはたき火のできる場所で遊んだり。丹波でたき火ができる場所には、「里山ごんげんさん(氷上町谷村字後谷89)」があります。そこは「昔ながらの山での遊びを、子どもたちに残してやりたい」という地域の大人たちの願いや意識があってできた場所で、そういう意識を持っている方々が作ってくれた場所があるのが、ありがたいなぁと感じます。山登りを楽しみたい時期や、気候のいい時期には「丹波の森公苑」の里山で遊んだり、暑い時期には水辺で遊べるような場所にいったり、大路地区の「こどもの森」でもマリオさん(森林インストラクター・山崎春人さん)
のような方がいて下さったり、自然の中で子どもたちを成長させてあげたい、と思って下さる人や、場所の存在が本当にありがたいです。

里山ごんげんさんに行った時の様子。小さな子どもを連れたお母さんたちが集まる。

麻:最近の「くりぼう会」ってどうなんですか?
貴:「くりぼう会」が始まって5年以上になりますが、その時々によって、色んな方が入ってくれるので、手仕事とかでやりたいことも変わってきたりします。以前はガチガチに「自然遊びだからこうじゃないと」「くりぼう会はこういう活動をしたい」という想いが強かったんですが、最近は集まってくれる人のしたいことを受け入れてみようと。今まで自分で興味がなかったことでも「くりぼう会でやりたい」と言ってくれたことはやってみて、そしたらやってみたら面白かったりして。
来年からは、私も自分の子が大きくなってきたのでくりぼう会に直接かかわっていくことが減っていくと思うのですが、自分の子と、里山でお散歩したり手仕事したり、そういうことができる時間があってよかったと感じています。

 

くりぼう会のチラシ

 

interview / writing:済木麻子