“ゾウガメの森”となる庭を求めてIターン
鶴田直樹さん
こちらの記事は自身も移住者である丹波市移住定住相談窓口メンバーが行なった先輩移住者のインタビューです。令和5年度からは、インタビューさせていただいた方の人柄を知っていただくため、受け答えをなるべく自然のまま掲載しています。
神戸市北区で生まれ育ち、長年三田市にある工場で働いてきた鶴田直樹さん。幼い頃から爬虫類が好きで、18歳の時に念願のゾウガメを迎え入れたことをきっかけに、その存在は生活の中心となっていきました。しかし成長とともに大きくなった“家族同然”のゾウガメを、マンションで飼い続けることが難しくなり、広い庭のある暮らしを求めて物件探しを開始。
実家からの距離や通勤時間を考慮しながら物件を探す中で、丹波市の物件を発見。豊かな自然に囲まれ、DIYも思う存分できる環境は、鶴田さんにとって理想そのもの。ゾウガメがのびのび暮らせる庭づくり、さらには“ゾウガメの森”を実現するためのIターン。彼がなぜ丹波の暮らしを選び、どんな未来を思い描いているのか。詳しくお話を伺いました。
気兼ねなくゾウガメが飼育できる庭を求めて丹波市へ
ご出身はどちらですか?
神戸市の北区です。高卒で三田市にあるアルコールなどの食品添加物を作っている会社に就職しまして、社会人になってからもしばらくは実家から通っていました。その後、宝塚市にあるマンションに引っ越して暮らしていました。
就職先は今でも同じところに勤めていまして、18年目になります。といっても、50人程働いている職場で、18年目でもまだまだ平社員といった感じですが。
高卒入社ということで、どういった経緯で就職を決めたんでしょう?
一次では他の会社を受けていたんですが、落ちたんです。僕は作文が苦手で、作文がないところを探してたんです(笑)
そこで二次募集が出ていたので、受けてみたら受かったという感じですね。
ゾウガメを飼われているということで、最初はいつ飼ったんでしょう?
18歳の時ですね。会社で働き始めて、いただいた給料で飼いました。最初はとても小さくて、宝塚に住まいを移した時もまだ小さかったんです。でも、マンションで暮らしているうちに、どんどん大きくなっていったんですよね。
ちなみに、ゾウガメを飼おうと思ったのはどういった理由からだったんでしょう?
僕は物心ついた頃にはもう爬虫類が好きだったんです。最初は虫採りとかから始まって、その後近くにいたヘビを捕まえたり、飼ってみたりして、きっかけがわからないくらい、いつの間にか好きになってたんですよね。実家付近は自然がいっぱいありましたし。
それで、飼育が許されているものの中で、一番大きいものがアルダブラゾウガメということもあって、「いつか自分もアルダブラゾウガメを飼ってみたい」というのが夢だったんです。
そういうことだったんですね。ゾウガメってどれくらい大きくなるんですか?
最終的には甲羅部分が1mを超えますね。体重も一般的に200kg近くになります。当初から飼っているゾウガメははじめ1kgもなかったんですが、今では60cm、50kgくらいになってきました。ちなみに寿命は平均的に100歳以上生きますね。
それは後々のことも考える必要がありますね(笑)では、マンションでの飼育は難しそうですね。
そうなんです。マンションで飼う中で、ケージなど必要なものはDIYしたりしてたんですが、やはり騒音も出ますし、大きくなってきて飼育するのが難しくなっていったんです。それで、僕は一旦実家に戻ったあと、広い庭のある物件を探し始めたんです。
なるほど。物件探しはどういう条件で探していたんですか?
マンションではもう無理だなと思ったので、とにかく広い庭がある物件で、エリアは特に絞らず、実家までの距離と、職場までの通勤時間が1時間でいける範囲でとネットで探して、ここを見つけました。
とにかく庭ありきで、家の状態はどんなものでも構わないと思っていたんですが、かなり綺麗な状態で残してくれていたので、最低限の水回りだけはプロに任せてリフォームしてもらって、あとは自分でDIYで少しずつ改修をかけていこうと思っていました。
家のDIYってなかなか大変そうです。
家を買ったのが2024年の6月で、しばらくは平日は実家で、土日はこちらにきて作業をしていました。でも、思った以上に進まないですね。
元々綺麗だったんですが、それよりも暮らしていくとなれば自分は結構身長が高いのに敷居が低くて、しょっちゅう頭をぶつけるのがストレスだったんです。それで床を下げようと思って着手してみたら、結構大変ですね。
他によさげな物件はあったんですか?
西宮とか三木の方とかにも物件はありましたが、トイレが汲み取り式とか、車をとめる駐車場がなかったり、「ここや」っていうのがなかったんです。今の家は、周囲が道路とかで自然と囲われていますし、庭も敷地内にいくつかあったのが決め手でした。
丹波の冬はゾウガメともにちゃんと越えられたんですか?
そうですね、寒さには弱いので小屋を作ってヒーターをつけたりして、なんとか越えれました。今は一時的に他の方のゾウガメも預かっていて、その他に別の種類のカメも2匹飼っています。カメ6匹、猫1匹と一緒に暮らしています。
最初、自治会の人は庭でゾウガメたちを飼うことについてどんな反応だったんでしょう?
物件購入の前に、自治会の人とのマッチングがあって、事前に飼うことは伝えていました。近隣の方に迷惑をかけることがないように、敷地から出て行かないよう配慮していくことは話していました。事前に色々教えていただけたので、どういう暮らしになるかイメージがついたので助かりました。
ゾウガメたちと共に暮らす丹波での生活
丹波の暮らしはいかがですか?
自然が多いので気にいっていますし、僕がしたかった暮らしに合っていると感じています。実家も裏手が山で、小さい頃から山に登って遊んでました。都会よりは、自然とか生き物がいるところの方が楽しいですし、DIYも気兼ねなくできますし。
DIYは元々趣味で、ケージつくるところから始まったんですが、マンションとかは騒音が気にしないといけないので、思うようにできなかったんです。今ではかなりDIY機材を揃えたので、色々できるようになりました。
DIYしようって思っても、誰でもできるものじゃない気がしますが。
最初はYouTubeとかを見てたんですが、それを見て自分でもやれるって思ったんですよね。
自治会での付き合いはどうでしょう?
自治会に入りましたが、まだ家の改装中で、地域の掃除くらいしか出れていないので、交流らしい交流はできてないんですよね。
でも以前、地元のお祭りに『せっかくなのでゾウガメと触れ合う機会を作れないか』と声をかけてもらったりして、結局悪天候で流れましたが、気にかけてもらってるのがわかって嬉しいですね。ご近所さんも散歩中に声をかけてくれたり。ありがたいです。
近所の子どもたちも喜びそうですね。
近所の小学生とかが通学途中にゾウガメを見かけて、「めっちゃ大きなカメがいる!」という話を親にして、たまに家にいる週末とかに親子で見にこられたりもしますね(笑)
ゾウガメたちと触れ合う機会も作ってあげたいところなんですが、家の改修がまだ途中で、全然目途が経ってないので、その辺りはゆっくりと進めていきたいですね。草食でおとなしいんですけど、いかんせん重いので、子どもに体当たりしたらやはり危ないですし。
丹波の暮らしで不便に感じることとかありますか?
生活に不便さは感じないんですが、実は今DIY中で、キッチンがないんです(笑)
それでご飯を食べに氷上の方に出たりもしますが、家に元々あった火鉢で色々焼いて食べたりして、家の中でアウトドアみたいな生活をむしろ楽しんで暮らしていますね。
(笑)ゾウガメたちも暮らしに満足してるんでしょうかね?
そうですね、この時期は小屋にヒーターをつけてますので、日中は外で日向ぼっこして、夕方になれば勝手に小屋に帰ってきますし、のびのび暮らしてますよ。日差しが強い日の為に日除けを作ったんですが、まだ全然入った形跡がないですけど(笑)
ゾウガメは基本的に草食で主に葉っぱを食べますが、サツマイモとか、夏野菜ならトマト、ナスなんかも食べます。ゾウガメは東アフリカのセーシェル諸島に生息していることもあって、サボテンもトゲを気にせず食べますし、タンポポとかオオバコも食べます。
では庭の雑草も食べるんですか?
食べますよ。餌用にということで、桑の木とサボテンを庭に植えて育てています。寒さに強いバナナの木も植えて育てていたんですけど、育つ前に、柵をゾウガメに破壊されましたね(笑)
ただ、冬場は草も生えにくいので、どうしても餌の確保が難しくなります。それで野菜の確保も難しい場合は、代わりにウサギの餌をあげてたりもします。ですので、野菜のおすそ分けをいただけるのは彼らにとってもかなり助かりますね。
なるほど。柵が壊れるって、ゾウガメはかなり重いという話でしたし、一番外側はかなり丈夫そうにされてますね。
敷地の外に勝手に出ていかないよう、DIYで柵を作っているんですが、かなり頑丈にしておかないと、体当たりで壊されちゃうので。その辺は細心の注意を払っています。
そういえば、鳥獣被害にあったりするんですかね?
そうですね、今のところ実被害はないですが、アライグマなんかはカメがまだ小さい間だったら食べてしまうって話は聞きますね。うちのは結構もう大きくなってるので大丈夫だと思いますが、少し心配ではあります。
なんか、人間とそんな変わらない気がしてきましたね。ちなみに、最初から飼っているゾウガメのお名前は何でしょう?
「ジャニア」と言います。最初はジュニアって呼んでたんですが、他のカメ用のエサもがんがん自分のものにしていく様子を見て、「なんかジャイアンみたいなやつやな」と。それで、ジュニアとジャイアンを合わせて、「ジャニア」になりました(笑)
名前のわりに、ジャニアは怖がりで、見知らぬ人が近づくと逃げたりします。おとなしいとはいえ、やはり噛まれると血がにじむ程度には痛いですので、初見の方はむやみに近づかないようにお願いしたいところですね。
ゾウガメたちが自給自足できる“ゾウガメの森”をつくりたい
今後の展望を教えてください。
なんといっても、まずは家を完成させることです。自分が快適に暮らせるようにするのが目先の目標ですね。家の中に関しては、これから爬虫類を増やしていきたいなと思っていて、勝手に外に出ていかない対策を施しつつ、快適な飼育環境を整えていきたいと考えています。
庭は「ゾウガメの森」にしたいんですよね。カメのエサになる植物を植えて、カメの自給自足を実現してあげたいんです。最初に作った小屋も、もっとちゃんとしたものに立て直してあげたいですし、敷地内には庭が何個かあるので、それぞれちゃんと整えていきたいなと思っています。
そういうことをやってる人はすでにいるんですか?
そうですね。ゾウガメを飼っている人の集まりで「ゾウガメ会」というのがありまして、飼っている人のご自宅に集まって交流したりするんですが、SNSで知り合った方がゾウガメの為の庭を作っていて、そういうのを目指したいなと思ったんですよね。
ゾウガメ会に入っている兵庫県在住の方が結構いたりしますので、いつかはわが家でゾウガメ会を開催したいというのが、当面の夢であり目標ですね。
将来的には仕事にしたいとかそういったお考えはあるんですか?
必ず実現したいわけではなく、実際に何かをする予定は今のところないですが、そうなってもいい準備は進めておきたいと考えていて、動物取扱業の資格取得は進めています。
取得するのに、施設登録が必要で、資格は「販売」「展示」と複数種類があるんですよね。爬虫類を飼って、いずれは繁殖もしたいと思っているので、繁殖させるということは販売することも出てくるでしょうから、そうなると資格がいるんです。
この先、自分の理想を実現するためには複数資格をとる必要もありそうですが、今はまだ、必要に応じてって感じですね。暮らしを楽しく満喫しながら、少しずつ、出来る範疇で進めていこうかなと思っています。
鶴田さんはゾウガメのための庭を探していたということで、少し突飛な事例のように見えますが、ここ数年、丹波市へ移住してこられる方の多くは鶴田さんと同様に「移住」というよりは、物件を探していた結果としての、街中の引っ越しと同じような感覚で丹波市へ住むことになったケースが目立ちます。特に元々京阪神にお住いの方や、働き先がある方にとっては顕著で、移住相談窓口で話すことは物件の話だけということも多々あります。この10年で移住者も増えてきて、ほとんどの集落(村)において何人かは移住者を受け入れてきた今、今回のように「ゾウガメを飼いたい」という少し特殊な話でも自治会が許容したことも、丹波市全体で移住者を受け入れる下地ができてきたのかなと感じられたインタビューでした。