移住者インタビュー

Vol.70 / 2020.08.15

丹波市の大自然をそのまま活かした、唯一無二のようちえんを設立

竹岡郁子さん

2017年から丹波市が実施している「お試しテレワーク」企画で丹波市の関係人口として毎年移住者のインタビューに来てくれる、東京在住のライターFujico氏。
普段、東京に住んでいる彼女の目には、丹波市の人たちの暮らしはどんな風に映るのか。
この記事は、彼女が丹波市での滞在期間中に出会い、交流された方へのインタビューをまとめたものです。
丹波市に興味がある方はもちろんのこと、丹波市に住む方々も楽しく見ていただければと思います。

※この記事は、緊急事態宣言が解除された6月後半に行ったインタビューです。東京から丹波市に来る際にFujico氏には新型コロナウイルス感染の可能性がないかチェック頂き、十分な感染予防実施の上移動とインタビューを行って頂きました。

ずいぶん遠くまで来た気がした。実際は、JR福知山線の谷川駅から車で10分というアクセスしやすい立地だが、ここは山に囲まれており見晴らしも良い。そんな場所に、里山ようちえんふえっこはある。木のぬくもりを感じる建物が2つ、道路を隔てて建っている。その一つの建物の広場に、きゃっきゃと遊ぶ子どもたちがいた。にかっと笑い出迎えてくれたのは、今回インタビューをする竹岡郁子さん。ふえっこの創設者であり園長だ。都会から移住してきた彼女は、なぜここに子どもたちの施設を作ろうと思ったのか、どんな教育・保育をしているのか。丹波市だからできる教育・保育、そして竹岡さんの丹波市での生活についてお話を聞いてみた。

 

 

 

田舎暮らしを夢見て過ごし、結婚を機に丹波市へ移住

 

 

 

京都で生まれて大阪で育った竹岡さん。幼稚園に勤め忙しい日々を過ごしていたという。特に縁があったわけではないが、その頃から田舎暮らしへの憧れを抱いていた。

 

 

 

 

丹波市で農業やNPO法人を営んでいる人とご縁があり、結婚、そして移住をしました。

こうして結婚を機に仕事を退職し、丹波へ移住した竹岡さん。移住した後すぐは、夫の農業を手伝った。

 

 

 

せっかく都会にはない自然があるので、子どもたちが思い切り自然の中で遊べる場所で教育・保育をしたいと思ってましたが、自分のすぐそばに環境が整っているので、それを活用して、保育を始めてみようと思いました。

 

 

 

「親子で散歩」から始まった、竹岡さんの教育・保育の形

 

 

 

竹岡さんは友人と、友人の2歳の子どもと一緒に、とある自然教育を行う子育てサークルへ度々訪れていた。そしてそこで、より自然に近い形で教育・保育をしたいと感じたという。

 

 

一緒に子育てサークルへ訪れていた友人は、子どもを自然の中で子育てしたいという人でした。そこで、子どもと3人で一緒にお散歩をしないかと誘ってみたのです。

 

 

 

竹岡さんと友人と2歳の子ども。3人で丹波市の自然の中を散歩した。そのことについてSNSで発信したところ、思いのほか、多くの人から問い合わせがあった。

 

 

子どもが楽しむにはまずお母さんも楽しんでもらうことが一番だと思い、親子クラスを立ち上げることにしました。週一でお母さんと一緒に来て、お散歩をしながら川にいったり、焚き火をしてみたり。季節に合わせた自然の遊びを始めました。

 

 

そして徐々に体制を整え2016年、「NPO法人丹のたね」のもと、竹岡さんはご自身が住む丹波市の笛路村で「里山ようちえんふえっこ」をスタートさせた。

 

 

 

自然すべてが、子どもたちのプレイグラウンド

 

 

 

丸太や手づくりのシーソーにツリーハウス。丹波市の自然からのおすそ分けであろう材料から作られた子どもたちの遊具が、広場に広がっていた。里山ようちえんふえっこは、拠点とする敷地はあるものの、子どもたちの行動範囲はここだけには収まらない。周りの自然すべてが、子どもたちにとっての遊び場だという。

 

 

 

 

 

子どもたちは9時から15時までここにいます。大まかなカリキュラムは組んでいますが、時間割はありません。また、年齢でクラスを分けることもしていません。私たち大人は、サポート役として子どもたちと一緒に過ごしています。

 

 

通常だと、今日は◯◯を作る、音楽の時間があるなど、その日にやることがだいたい決まっている。また、ほとんどの幼稚園では敷地内で過ごすことが一般的で、毎日敷地外に出ることはほぼない。しかしふえっこのリーダーは園児たち。山へ行く、川へ行く、そこでどう遊ぶというのは子どもたちが決める。大人は、子どもたちの体調管理など無理がないよう彼らを支える役割だそうだ。

 

 

笛路村には豊かな自然環境があり、夫が営む農園もあります。そして田畑を守っている地域の人などたくさんの人たちに守られて、子どもたちは過ごしています。そのため大人と関わる機会も多く、自然だけでなく世代を超えた交流も生まれるのです。

 

 

 

 

 

子どもの可能性と自立心を引き出す、ふえっこならではの方法

 

 

 

1日の時間割が決まっていないふえっこだが、やることを細かく決めないのには、竹岡さんの狙いがあった。

 

 

自由に育てすぎて規律を守らなくなるのでは、と心配される方もいらっしゃいます。しかし子どもたちは、私たち大人が思っているより、色んな事がわかっています。そして思いやりもあります。

 

 

時間割があると、大人は集団を管理しやすいが、子どもたちの可能性を最大限に引き出せない要因になることもある。

 

ふえっこでは、時間に急かされることはあまりないので、苦手だったことも自分のペースで徐々にできるようになり、それが子どもたちの自信に繋がっています。他の子どもたちは、準備に時間がかかる子がいてもちゃんと待っているんですよ。

 

 

 

 

 

また、ふえっこでは自分の準備は自分自身で行うため、自立心がしっかりと育まれる。これも、自分たちで考え行動していく力が養われているからこそだ。

 

 

このような教育・保育が実現できるのも、少人数制だからということもあります。現在ふえっこでは大人が2人。子どもは全員で9人。最大で15人までと考えています。

 

 

通常の幼稚園では、1クラス30人ほどを1人の先生がみる。しかしふえっこでは、幼児期にしっかりと向き合い、しっかりと心の成長をサポートし、ケアしていきたいため、今後も少人数制、異年齢保育に徹底していくそうだ。

 

 

 

今までにないものを形にしていく葛藤と大変さ

 

 

 

順調にみえる幼稚園設立だが、この形が確立されるまで、そして確立された今でも大変なことは多々あるそうだ。

 

 

自然を使って、といっても都会で育った私にとって自然で遊ぶ経験はあまりありませんでした。最初は戸惑う部分もありましたね。

 

 

 

 

 

散歩から始めよう、草木染めをやってみよう、など竹岡さんが思いつくことから徐々に始めていった。そして今では自分でも驚くほど、自然が大好きになったそうだ。

 

 

自然で遊ぶということは、既存の幼稚園ではやらないようなこともやります。そうすると親御さんの理解を得るのが、難しいときがありますね。

 

 

一緒に野菜を育てたり、焚火の木をのこぎりで切ったり…。通常の幼稚園では使わない道具も、ふえっこでは使うこともある。遊びの中で必要な道具は大人が傍について使うため、開設してから5年たった今も大怪我をした子は一人もいない。しかし親にとって子どもの可能性を信じて待つ、見守るというのが難しくもある。

 

 

ただ、子どもたちの理解力は我々が思っている以上に深い。この山には入れる、ここは◯◯さんの畑だから入らない、自分には危ないからここから飛び降りないなど、子どもたちはちゃんとわかっているんです。そのことを、日々親御さんに伝える努力をしています。

 

 

 

 

 

 

大人が子どもの可能性を尊重すること。それが、子どもたちが持つそれぞれの個性を発揮し自立して生きていくのに、とても必要だと竹岡さんは話された。

 

 

 

子どもと一緒に過ごす上で大切なこと。それは自分自身が楽しむこと

 

 

 

思い切り丹波市での生活を楽しんでみえる竹岡さんも、移住した当初は丹波市での生活に慣れるまでに時間がかかったという。

 

 

にぎやかな都会生活から一変。こっちに来た当初は、夫と犬と静かに暮らしていました。人と話す機会が少ないことに、ストレスを感じたこともありました。

 

 

徐々に近所の人や移住者同士が繋がり、人との関わりが増えたことで生活に慣れ始めたという竹岡さん。自分の好きな仕事もスタートさせ心に余裕が出た今では、まず自分を大切にする暮らしを心がけているという。

 

 

日が暮れたら家に入り、無農薬のおいしい丹波の野菜やご飯を食べ、生活に少しずつ楽しみを増やしてます。最近はお花を始めてみたんですよ。

 

 

 

 

そんな竹岡さんは、もうすぐ母になる。大人がのびのびと過ごすことが、子どもたちに良い影響を与えると考え、彼女自身もどんどん丹波市での楽しみを増やしている。そんな竹岡さんに今後の目標を聞いてみた。

 

 

ふえっこで経験できたことも、小学校に入ると経験できなくなることが多々あります。そのため、何かしらの形で子どもたちが自然とふれあい続けられる場所を作れたら、と思っています。

 

 

ほとんどの子どもたちが地域の公立小学校に入学し、自然に触れる環境、そして自分自身でやることを決められる環境ではなくなっていく。アフタースクールなのかホームスクーリング(学校には通学せず家庭に拠点を置いて学習を行う)なのか、サドベリースクール(時間割等がないフリースタイルの学校)なのか。形こそまだはっきりしていないものの、卒業しても同じように過ごせる居場所を作ってあげたい。そんな熱い思いを話してくれた。

 

 

 

 

 

人との繋がりも心地よい、丹波市での生活

 

 

 

竹岡さんが感じる丹波市の良さは自然だけではない。地域の人は親戚のような感覚で自分たちを見守ってくれるので、とても心地の良い人間関係が築けているそうだ。

 

 

いっぱい作ったからと食べてと、おかずや野菜を持ってきてくれたり、いろいろと気にかけてくれたり。主人もIターンですが、地域の方は温かく受け入れてくれています。

 

 

今では丹波市在住の人と一緒に仕事をする機会も多く、良好な関係だそう。また、ふらっと様子を見に訪れてくれるような人との程よい距離感が、丹波市ならではだという。

 

 

大阪や神戸から1~2時間で来ることができる距離。移住者、特にIターンも多いので、コミュニティにも入りやすいと思います。

 

 

 

 

 

何か移住したい人にアドバイスはありますかとお尋ねすると、「もし地域に入るなら、土地を守ってこられた人たちの思いに敬意を持って接すれば、地の人は快く受け入れてくれる」とアドバイスをくれた竹岡さん。もし、竹岡さんが行っているような、丹波市だからこそ味わえる暮らしや教育・保育に憧れていたけど躊躇している人がいたら、ぜひ竹岡さんを訪ねてみてはいかがだろうか。子どもも、家族も、そして何より自分自身も、自然に帰ることができるような暮らしの仕方を教えてくれるかもしれない。

 

 

 

TurnWaveでも2回目の取材となる竹岡さんにお話を聞きました。以前取材した当時はまだ森のようちえんが始まる前でしたが、今では丹波市にとってかかせない魅力のある場所になっています。自然の中で暮らしたい、という想いから移住してきた竹岡さんも、様々な出会いやきっかけで自分らしい自然な形を見つけておられるように思いました。先入観だけでなく、あり方を柔軟に変容していくふえっこ、そして竹岡さんの動きに今後も注目です。