【起業インタビュー】ablabo.

蔦木由佳さん~「農業の近くで油を作りたい」油を進化させる為に移転した、手搾りの油屋さん~

移住・移転した経緯を教えてください

元々、岡山県の西粟倉村で始めたablabo.の事業は原材料の仕入れが卸問屋か、契約農家から仕入れるかの2パターンでした。今後もっと自分が作りたい油を作る為に原材料との距離を縮めたいという思いがあったんですね。

でも、西粟倉村は小さな谷あいの村で、農業といえば兼業農家の稲作がほとんど。油を搾りながら自分で農業するイメージがつかなかったんです。

農業の担い手不足や高齢化等、社会問題が叫ばれる中で、若手農家と一緒にやっていければと思っていた時に、取引先の方から『今度、宝塚の百貨店で催事があるけどablabo.さんどうですか?』と言われて。

参加してみたら、その時丹波市から同じように声をかけられて参加してた農家の松本佳則さんと出会って。実はこれが初めましてではなくて、SNSで共通の知り合いと繋がっていたことが分かって、意気投合して。

その後、松本さんは有機農業するのに油粕を使うということで、用事で行き来するついでに受け渡ししたりしてたんですね。ある時ふと、『農業に近い油作りがしたいんだよね』と話をしたら、『僕、協力しますよ』と言ってくれて。

以前から丹波市へ足を運ぶ度に「なんて畑がしやすそうな地域なんだ!」と思ってたんですよ。どこもきれいに整地されてるし、山も近くないし、日照時間も長そうだし。

私は兵庫県北部の出身で、丹波ブランドはなんとなく頭にあって。「食べ物を作るにはすごくいい場所だよなあ」とか思うと、「よし!丹波にいこう!」となりました。

西粟倉村での暮らしに何も不満はなかったんですが、単純に「農業の近くにいたい」「自分の油を進化させたい」と考えれば、移転という選択肢になった感じでした。

夫はこの事業をすごく応援してくれているので、「ablabo.にとって必要な移転ならいこう」と言ってくれたのもあって、2021年に物件を探して、2022年4月に移住・移転しました。

物件選びは、地名に“油”が入ってたのが決め手でしたね、運命を感じました(笑)

以前住んでいた場所と、仕事や生活での違いは何かありますか?

丹波市に来てからとっても便利になりましたね。少しちゃんとした食材を買おうとか、大きなホームセンター行こうとなれば以前は車で30~40分かかっていたのが、「丹波は10分走れば何でもあるやん!」って感じです。

商業エリアがギュッと固まってて、少し走れば田舎らしい自然も満喫できる。仕事面でも生産者がいっぱいいて。充実してますよね。

なぜ搾油業を始めようと思ったんでしょう?

まず大学生の頃からいずれは起業して、自分の手で仕事を作って生きていきたいと思っていました。

高校生の時の夢は国連職員で、大学では国際政治の勉強をしてたんですね。条件に母国語以外に2か国語を喋れる必要があって留学に行く予定だったんですけど、取り次いでいた会社が倒産して、お金も返ってこなくて留学出来なくなったんです。

その頃は夕張市が破綻したり、リーマンショックが起きたり、ギリシャが財政破綻したりという頃で。自治体だろうと会社だろうと国だろうと、もはやこの世に安定なんてものは存在しないんだなと実感して。どうやったらこの先の社会を生き抜いていけるかと思った時に、自分で仕事を持って、自分で作るのが一番強いんじゃないかなと思って、起業しようと。

それで起業しようまでは決まったけど、何で起業しようか悩んでたんですね。先輩起業者に話を聞けば『起業はあくまで手段。目的がないと失敗するよ』と。

「私の目的ってなんやろう?」と思いながら、なんとなく小豆島に旅行へいった先で、搾りたてのオリーブオイルに出会って。「油おもしろい!こんな美味しいんや!」となって。そこから油のことを調べ始めたら、年々生産者が減っていて、このままいくと手搾りがなくなりそうということがわかり。

それがなくなるのは嫌だなと感じたのが、油への入り口でした。

丹波市へ移転する際に懸念していたことはありますか?

どちらかというと期待の方が大きかったですね。

丹波市は食に関わる人が沢山居て、そういう人たちと具体的にコラボできなくても出会って直接話せるだけでも自分のエネルギーになるんじゃないかなと。だから食の職が豊富な丹波市に、ワクワクして来ました。

一般的に移転は結構大きなことなので、吉とでるか凶とでるかわからない部分もありますが、自分でやりたいと思ったことは自分で粛々とやるしかないし、想定では以前まで出来てたことで、丹波市で出来ないことは存在しないはずなので、まあ、頑張ればいいだけかと。

移転の段取りはどんな感じだったんでしょう?

移転先選びはコロナ禍だったのもあって、web上で気になる物件をピックアップして、内見の手配をたんば“移充”テラスにメールしました。

事業所移転は細かい荷物とごつい搾油の機械が3台あって、岡山県内の引越屋さんに連絡とって見積りにきてもらって。金額を聞いたら意外と安かったんで『じゃあもうそれでお願いします』と決まりました。大きなトラックにバンドとかで機械をガチガチに固定して、相当の運送保険をかけて。

引っ越す前に夫の体が空く度に車に荷物を積み、一人丹波市に行ってもらって、住み始める前にDIYで壁を塗り、たまに西粟倉村に帰ってくるみたいに、4か月くらいは二拠点生活状態でした。最後、冷蔵庫とか自分たちで出せないものだけは大手の引越屋さんにお願いしました。

事業所と家のダブル引っ越しはもう大変で、もう二度としたくないですね(笑)

屋号の由来は何でしょう?

油のラボラトリーですね。自分がただただ「おいしい油を追求したい」というので名付けました。

あと、名付けてみて、「案外語呂もええやん」となりまして(笑)

移転されてからここまで、ビジネスの状況はいかがですか?

以前までの取引でいえば、「岡山県産だから」との理由でお取引頂いてた先はさすがに難しくなったんですが、元々事業として大きく割合を占めるのはOEMなんです。

例えば農家さんが『試しに5kg程荏胡麻作ったんやけどこれで油絞って道の駅で販売したい』みたいなのが結構多くて。

OEMは世の中に小ロットで受けてくれる油屋さんがほんと少ないので、個人の農家さんから割と大きめの会社さんまで、北は北海道から南は九州までと、全国から依頼がきます。

※相手方のブランド名で受託製造すること。

あと、丹波市に来てやりたかったことの一つが菜種の取引なんですが、去年の秋に松本さんや農の学校と一緒に菜種をまいて、今度その収穫した種を絞る予定です。

一人の農家さんに何トンもの種を担ってもらうのは現実的ではないので、2~3畝だけでも小さく菜種を作ってくれる人が10人いれば約2反になる訳で。そういうのを広げていきたいですね。

汎用コンバインがあれば収穫が相当楽になるので、所有してらっしゃる先とお付き合いが出来ないか模索中です。

※1畝:約99㎡。1反:約990㎡。

起業してよかったこと、逆によくなかったことはありますか?

よかったことは、この仕事をしてなかったら出会えなかった人が沢山いて、出会えたことが純粋によかったなと。

あと、頑張るのも休むのも自分のペースでできること、「自分の人生の裁量が、全て自分にある」っていうのが、私にとっては心地いいスタイルだなあと実感してます。

起業しようとより心を固めたのは、2年半ほど会社に入って、「私、会社員は全然向いてないな」と感じたことでした。その会社は私がいずれ起業するとわかってて自由度もくれていたんですけど、無理でしたね。

よくなかったことは一つだけですね。収入が安定しないことだけです(笑)

移転してよかったこと、逆によくなかったことはありますか?

よかったのはやはり目標の一つの菜種の栽培ができたことですね。来月には純丹波市産の油が販売できる予定です。

あと以前から自分でも油の販売がしたくて、その話を西粟倉村で日本酒販売をしていた友人に話をしたら『私も丹波市でやろうかな』という話になって。ついでに夫がワイン好きなこともあって、今年4月から酒と油とワインのお店「kamiyuri」を自宅横で始めることになりました。

以前は集客が見込めなくて難しかったですが、丹波市は構えられる。

丹波はほんと、美味しいものがいっぱいあって困りますね。開拓したいお店がいっぱいあるし。それが嬉しい。

あと、地名でいじってもらえるようになったのが嬉しいですね(笑)

よくなかったことは、意外と暑い。雪が嫌いで避けた結果なんで仕方ないんですけど。西日があるってすごいなって思いますね。前の家は15時には日没して、夕日がなかったんで。

将来の展望はどのようにお考えですか?

何よりまずは丹波市産の原材料で毎年油を作って販売していけるようにしたいです。農家さんには楽しみを増やす感じでお付き合い頂ければ嬉しいなと。

工場やお店の規模を大きくするよりは、自分自身の行動範囲を広げていきたいですね。

丹波市には野菜もお米も沢山ありますけど、丹波市産の油はないんですよね。菜種を作ってくれる先が増えて、春先の桜に菜の花が加わって観光的な部分でも油が関わっていけたらいいなと。

起業を考えている人へのアドバイスをお願いします

『とりあえずやればいいよ!』としか言えないですね。私も当初、絞るものがないのに機械を先に買いましたし(笑)

なんだかんだ、それでも10年程やってこれてますので。「やれば、始まる。」っていうのが、核心かなと思います。

今のご時世、仕事しながらでも起業できますし、検討期間が長くなるのはあまりよくないのかなと。

やってみないとわからないことばかりなので、まずはやってみるのをお勧めしますね。

 

※この記事は2023年7月26日に取材した情報をもとに作成いたしました。

事業者名  ablabo.
代表者名  蔦木由佳
 669-3573
所在地  兵庫県丹波市氷上町油利272
Webサイト  https://ablabo.org/
instagram  https://www.instagram.com/ablabo_work/

 

店舗名  酒と油とワインのお店「kamiyuri」
店舗所在地  兵庫県丹波市氷上町油利272
営業日  金曜11:00〜18:00 / 土曜11:00〜16:00 / 日曜11:00〜16:00 ※第3日曜日は定休
店舗instagram  https://www.instagram.com/kamiyuri_sake.oil.wine/