村上樹里さん~丹波布の担い手となり、生業とする為に起業~
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移住前はどんな暮らしをされてましたか?
私は大阪生まれで、10歳の時に父親の仕事の都合で香川県に引っ越しまして、大学進学でまた大阪に戻ってきたんです。卒業後は大学職員として働いてました。
職員になる前に、大学で文化人類学系のゼミにいて、そこでフィールドワークをしていた中で機織りの現場を何度か見てたんですね。それもあって、ずっと仕事から帰れば趣味で編み物をしていて、手仕事の面白さに目覚めました。
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移住した経緯を教えてください
手仕事に目覚めた頃に、その機織りのことを思い出して、「どうせ手仕事をやるんだったら日本の伝統的なものをやりたいな」と思い始めて、機織りワークショップとかに通うようになり、もう本格的にやりたいなと。
それで日本全国の織物産地を調べていく中で、丹波布を知って、丹波市の方で後継者育成の為の伝習生制度があるのを知って。「これはもう行くしかない」と決意して、仕事を辞めて移住してきました。
伝習生は最低2年間、最長4年間通えるんですが、私は4年間通って卒業しました。家は当初、“棉ばたけ”という丹波布を学びにきた人が多く入居している農村滞在施設に住んで、修了後は一軒家を借りて住んでいます。
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以前住んでいた場所と、仕事や生活での違いは何かありますか?
仕事面では、以前は平日9~17時で働き土日は休みと、ある程度仕事とプライベートが切り分けられていたんですが、今は「生活が仕事」みたいな感じでメリハリがなくなってきたので、その辺りをちゃんとしていきたいなと思いますね。どこまでもダラダラできちゃうので、自分を律する為に。
あと生活面では、歩かなくなってしまったなと。都会だと電車生活なので結構歩いてましたが、こっちではほぼ車生活になるから、人との物理的な距離も開いたというか。田舎ってもっと体動かすイメージだったんですが、運動不足になったなあと感じてます。
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なぜ織物業を始めようと思ったんでしょう?
織物を趣味にして別で仕事をするんだったら、それは大阪でも出来ることなので、やっぱり丹波市に移住するぞと決めた段階で、伝統工芸の担い手として生業とする気持ちでしたね。丹波布を趣味にするつもりは全くなかったです。
完全に機械化され、分業化されている他の有名な織物とは違って、丹波布は糸紡ぎから織りまで全て人の手がやるんですね。私は最初から最後まで、全工程を自分でやりたかったんです。人の生活に身近な木綿織物がしたかったのもあって、そう考えると丹波布がぴったりでした。
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丹波市で起業する際に懸念していたことはありますか?
やっぱり、丹波布というこの伝統工芸品を生業にすることの難しさは最初からありましたね。同じ伝習生でもほとんどの人は趣味でやる前提でしたし、モチベーションを保つのも大変で。
私自身はあくまで作り手で、宣伝広報には向いてるタイプではないので、販路拡大含め、どうやっていくのかについては未だに悩みながらやってるところですね。
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当初の資金繰りはどうされましたか?
私は昔から貧乏性でお金をあまり使わないタイプなので、大阪時代に働いた給料をちゃんと貯金してたんですけど、それを資金に当ててました。ローンも考えましたが、どれだけ売れるかわからなかったので、借り入れはしなかったですね。
道具を揃えるにも新品だと織機一台で何十万とかするんですけど、知り合いに安く譲ってもらったりしました。それでも、織った布で商品を作ってもらう委託費とか材料費とか、色々経費はかかってくる中、兵庫県の支援事業に採択されて助成金を頂けることになったのは大きかったです。
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起業する際、具体的な手続きについては誰かに相談されましたか?
4年程前に、丹波市商工会が毎年やってる起業塾で基本的な勉強をさせてもらって、そこで知り合いができて、そういう人達とも繋がる中で切磋琢磨しながらというのもあるんですけど、基本的には自分で調べて、考えて、決めてきました。
ただ、値段決めるのだけは本当に難しいですね。人の手に渡らないと意味がないから、あまり値段が高くならないようにとすれば原価率が高くなるしで、その辺のバランスが難しくて未だに悩んだりもします。
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屋号の由来は何でしょう?
色んな織物産地を見てると、代々続く織物屋さんでは「〇〇染織」という屋号が結構あるんですね。私はその“代々続いてる感”に憧れがあって、私も「〇〇染織にするぞ」って最初から思ってたんです。
それで〇〇をどうしようかなと思ってた時に、丹波感も出したくてすごい色々考えたんですけど、しっくりくるものがなくて途中で考えるのがしんどくなってきちゃって。ピンときた訳ではなかったんですけど、「もう名前でいいかな」ってなりました(笑)
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開業されてからここまで、ビジネスの状況はいかがですか?
まだそんなに売上がある訳ではないんですが、出展に審査が必要な、全国的に有名なクラフト展がいくつかあって、去年と今年でいくつか出展できて、丹波布やムラカミ染織を知ってもらえた手ごたえを感じたので、今後ももっと増やせるようにしていきたいなと。
丹波市内でもイベントで出展したり商品を置いてもらってるお店もありますが、今年の春にオンラインショップもオープンしたので、今後は英語版も用意して海外の人にも見てもらえるようにしようと考えています。そんな感じでボチボチと伸ばしていければいいかなと思っています。
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起業してよかったこと、逆によくなかったことはありますか?
よかったことはやっぱりもう、丹波布が楽しくてしょうがなくて、それを仕事にできるっていうのが一番の喜びですよね。趣味じゃなく起業して、値段をつけて買ってもらうことが現実になって、ちゃんとしたものを販売しないといけないという責任は、私にとっては重要だったなと思いますね。
よくなかったことは特にないですね、今のところ。強いて言えば収入が不安定なところですが、私の場合は「丹波布やるぞ」と決めた段階で、もうそれは不安だったというか、「さあ収入なくなるぞ」とある程度は覚悟の上で来たんで、許容範囲ですかね(笑)
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将来の展望はどのようにお考えですか?
今の借家では設備的な課題もあるので、新たに家を購入しようと動いているところです。ちゃんと工房として整えていきたいなと。あと、丹波布は丹波市の中でも青垣町が主要な発祥地ですので、いつか青垣でお店を持ちたいなと思ってたりします。
さらに夢を言えば、都会にも持ちたいんですよね。神戸と青垣でとか。そうすれば都会の人にも直接見てもらえるし、「ちょっと丹波に行こうかな」みたいな人もいるかもしれないし。常設店はなかなか難しいですけど、希望を持つのは自由ですからね。
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起業を考えている人へのアドバイスをお願いします
丹波布のような伝統工芸を本気で生業にしたいなら、やっぱり目標を決めて、計画を立てて実行に移すのがすごい大事かなと思っています。私も実際、伝承館を出た後、5か年計画を立てて、1年毎の目標を決めて、達成する為に何をいつどうやってやるかをして3年目になります。1つずつクリアする度にそれが自信になるし、責任感もわいてくるし。
あとは意志の強さですかね。人から受けたアドバイスは、「確かにな」と思うことは素直に取り入れるけど、少しでも違和感があれば鵜呑みにせず、自分の考えを優先させる。そういう、自分で考えて、自分で調べて、自分で決める、流されない意志は大事にしたいですね。
※この記事は2024年10月28日に取材した情報をもとに作成いたしました。
事業者名 | ムラカミ染織 |
代表者名 | 村上樹里 |
https://www.instagram.com/murakami_senshoku/ | |
ホームページ | https://shop.murakami-senshoku.com/ |