たんばの仕事

Vol.120 / 2022.09.28

歯に悩みを抱える人の「笑顔を創造する」歯科技工所

SC LABOA

業種
  • 医療・福祉

歯科技工士。普段、通院されている歯科医院で、その存在に触れる機会は少ないかもしれません。丹波市南部の山南町谷川で、歯科医院からの依頼を受け、日々患者さんの詰め物や入れ歯を制作する歯科技工所があります。今回はそのSC LABOAに取材しにいってきました。

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◆丹波市内で唯一、入れ歯と補綴物全般を行う歯科技工所

◆“向き不向き”より、“出来るまでやるかどうか”~これからの歯科技工士像~

◆実際に働く現場の声~田野陽菜さんのお話

◆「笑顔を創造する」仲間を募集中

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今回は代表の田村奉千さんと、スタッフの田野陽菜さんにお話を伺ってきました。

丹波市内で唯一、入れ歯と補綴物全般を行う歯科技工所

SC LABOAの事業概要を教えてください。

歯科技工全般ですね。

基本的には患者さんが歯科医院に行かれて、歯の型取りをされたらそれをうちがお預かりして、その患者さんに合わせた詰め物や被せ物、あと入れ歯ですとか、スポーツ用のマウスピースを作るといった仕事になります。

丹波市で、入れ歯と補綴物、両方製作している歯科技工所はうちしかないので、そこは強みかなと思っています。

SC LABOAはいつから事業されてるんでしょう?

1995年4月に父が創業しまして、2022年5月に事業継承という形で父から代表を変更して、屋号も変えました。

なるほど、では2代目なんですね。先代は引退されたんですか?

いえ、まだ全然普通に仕事してくれています。とりあえず先に代表を替わったという感じです。

なるほど。詰め物とかって、保険のきくものとそうでないものがありますが、全般ですか?

そうですね、全部です。最近は自費のセラミック素材なんかも増えてきていますが、ほとんど保険の仕事がメインになります。

一般の人は、自分の詰め物をよそで作ってもらっていることをあんまり知らないんじゃないかと思いますね。

通院してる歯科医院が作ってるというイメージがありますからね。市内でも、歯科技工士を抱えている歯科医院はほとんどありませんね。

特別、歯の治療に行ってる時に説明もされないですしね。

よっぽど特殊なケースで立ち合いにいかせてもらった場合は患者さんにもご挨拶しますが、それ以外は基本的に患者さんと面と向かってお話することはないですね。

歯科医院にいったら大体、ほぼ自動的に一週間後に来てと言われますが、納期って実際どうなってるんでしょう?

歯科医院によって異なります。うちは型とってから基本的には一週間で納品してまして、入れ歯とか少し複雑なものは10日間程いただきます。

週に一回しかお休みがない患者さんもおられるんで、それになんとか間に合わせてあげたいという気持ちでやってますので、やはり基本的には一週間ですね。

一週間で大体何個程つくるんですか?

そうですね、日々ばらつきはありますが一日20個程、多ければ一週間で120個程ですかね。入れ歯も数えればもっとあります。

田んぼで忙しい時期は減りますし、ボーナス時期は自費のものが増えたりとか、この界隈ならではの傾向があったりしますね。

技工所って普段、歯科医院のところに日々出入りするもんなんですか?

うちは全件回っているので、先生と出来るだけコンタクトとるようにしています。

物の受け渡しだけで考えれば郵送が一番いいんでしょうけど、コンタクトとれないと僕も不安なのでいくようにしています。

歯科医院の現場に立ち会うケースはありますか?

歯の色合わせだとか、あと全部の歯をなくされた方は入れ歯がどこで噛むかわからなくなるので、それを先生と一緒に立ち会って、患者さんと話しながら、噛み合う高さを決めていく場合といった感じですね。

僕らは直接口腔内を触ることはできませんので。

立ち会うケースは年に数回程度で、先生からの依頼があればというのが基本です。

最近は写真を撮ってもらって、そのデータを見ながら作るので、随分と立ち合いは減りましたね。

立ち合いは田村さんご自身がいくんですか?

今は僕と父でいくようにしています。僕はまだそこまで経験がないので、父がやっているのをみて勉強してるところです。

お取引のある歯科医院は何件くらいあるんでしょう?

うちは今15件程ですね。丹波市、福知山市、丹波篠山市の三市です。

高齢化に伴って、地域的にも今後もっと入れ歯も増えてくるでしょうし、ニーズ的には当面なくならない職種かなと思いますね。

“向き不向き”より、“出来るまでやるかどうか”~これからの歯科技工士像~

田村さんはいまおいくつですか?

今年で37歳になります。

なるほど、では割と早いタイミングの事業承継だったんですかね。

父が今年64歳でして、以前から『65歳で交代する』って言っていたこともあり、去年法人化を検討していた時に『じゃあ先に代表替わろう』ということで、事業承継しました。

なるほど。子どもの頃から継ぐ話はでてたんですか?

いや全く。

親は常々『好きにせえ』と言ってましたし、僕も全くその気がなくて、篠山産業高校の機械科いって、車関係の専門学校に行くことになり、それからしばらく市内のディーラーでエンジニアや営業をしていました。

そうなんですね(笑)どういった流れで家業を継ぐことになったんですか?

僕が結婚して、親と同居しようかという話になった時に、家業と車業界と双方の行く末を考えた結果、僕の方から事業承継の話をしたっていう流れですね。

それから歯科技工士の専門学校行って資格をとって、家業に合流したのが2015年ですね。

なかなか思い切ったキャリアの選択に感じますね。

全く違う仕事なんですけど、案外そんなに支障なかったですね。

歯科技工の専門学校で2年学ばれるってことなんですが、実際2年でどれくらいのことがわかるもんなんですか?

まずは何より国家試験をとる為のカリキュラムが多いんですね。ただ僕が行っていた学校は、実習に現場で働いてる人が先生でくるので、まだ現場感はある方でしたね。

専門学校を出た後、1年間は大阪の技工所に勤めて、勉強してから帰ってきました。

やはり、学校いってすぐ現場の仕事が出来るかって言われれば難しいですね。職人仕事みたいなところがあるんで、下積みがいりますね。

逆に、世の中的にはそこで辞めちゃう子も多いのが実情です。

やっぱり、歯科技工の仕事には手先の器用さっていりますかね?

あんまり関係ないと思いますね。“向き不向き”というよりは、“出来るまでやるかどうか”の方が大きいと思います。なので、丁寧にやれる人が伸びます。

2年間で全く知らない人でもある程度できるようになるので、器用さはなくてもいいし、あればなおよしってところです。

なるほど。田村さんは今も作業するんですか?

僕もやってます。午前中は外回りして、昼前に帰ってきて、3Dのデザインしたり、詰め物の研磨をしたりしてます。

歯科医院でとられた型を持って帰ってきて、模型を作り、それを元に補綴物に応じて作っていくのが基本的な流れです。

ちなみに、3Dがなかった時代はどうやってたんですか?

今でもしてますが、完全な手技工です。いわゆる指輪づくりと一緒で、蝋を盛り上げて、型をとって、金属に置き換えるっていう。

3Dが出来てからは大分楽になって、全部数値化できるようになりました。

入れ歯での、横の歯との当たり具合とか、「これくらい」っていう感覚だったものが、ある程度数値化できるようになると、基本的に同じものはずっと同じ当たりで作れたりします。

手技工では当然、新卒の子と10年選手とではやっぱり形が全然違いますが、デジタルでは同じものをポコッとおけるので、誰でもあまり大差ないものができるというのはデジタルのいいところですね。

今の時代、口腔内スキャナーや口腔内カメラがあって、うちでは近隣の歯科医院に先駆けてデジタルでやり取りできるような設備も揃えています。

都市部はかなり進んでますが、データをやり取りさえできれば作業ができるといった形になりつつありますね。

実際に働く現場の声~田野陽菜さんのお話

田野さんは、丹波市生まれ丹波市育ちですか?

そうです。柏原高校を卒業した後、大阪大学付属の歯科技工の専門学校に2年行って、その後ここに就職しました。2021年4月から働いているので、今2年目です。

歯科技工士になろうと思ったのはどういった経緯だったんでしょう?普通に生活してるとあんまり知らないですよね、歯科技工士さんの仕事って。

私の母が歯科技工士で、SC LABOAで働いてるんです。それと姉も歯科関係の仕事についてるのもあって、楽しそうかなあと。

身近に知っていた仕事だったというのが大きいです。

おお、家族の影響だったんですね。いつからなろうと思ってたんですか?

高校で進路を考えた時に、なろうかなあと思いました。地元に帰ってきたいという思いがあって、そしたらここが一番身近なところだったので。

働く前に思い描いていたイメージと、現実にギャップはありましたか?

それこそ実際の仕事内容は母からちょこちょこ聞いていたので、全然違うといったことはなかったですね。

働き始めのころは『自分は思ったより何もできないな』と思ったりもしてたんですけど、でも代表たちが親身に教えてくれるので、コツコツ出来ることを増やしていこうというところです。

実際に働いてみてどうですか?

楽しいですね。出来ていないところはしっかり言ってもらえますし、ちゃんと出来たところは褒めてもらえたりもしてるのでありがたいです。

仕事の内容は詰め物とか現物を作ってるんですか?

そうですね。入れ歯の最後の、きれいにする研磨の工程だったり、詰め物の金属の鋳造したてのものを調整したり、ちゃんと模型上ではまるように削って調整したりといったことをやっています。

自分で作ったものを、自分で患者さんに装着できないって、うまいこと作れてるかってなんかドキドキしますね。

模型がちゃんとできてると信じて、やるしかないですよね(笑)

それこそ模型で合っていても、実際に患者さんにつけてみたらズレていてやり直しといったことも稀にあったりもします。

やり直しってやっぱりあったりするんですね。勤務は平日だけですか?

そうです。完全に土日はお休みです。

ここの職場のいいところはどういったところでしょう?

とてもアットホームなところですね。

ああ、自分の母親もいらっしゃるんですもんね(笑)

そうです(笑)

友達からも『親と働くってあんまり考えられへんな』って言われます(笑)

田野さんは、この歯科技工士の仕事の、どのあたりにやりがいを感じられますか?

自分の作ったものが、歯科医院の先生から『患者さんにちゃんと適合してたよ』とか、『患者さんに喜んでもらえたよ』とかお話いただいた時に、ちゃんとできてるんやなと思えて、やっててよかったと感じますね。

なるほど。ありがとうございました。

「笑顔を創造する」仲間を募集中

今、SC LABOAは何人いらっしゃるんでしょう?

僕と父、正社員2人とパートが1人、事務を母と妻がしてくれているので7人です。

SC LABOAの今後の展開はどのようにお考えですか?

父ともう一人のベテランさんが60歳を超えてますので、新しい人を入れていきたいですね。

人を入れないと、新しい取引先もとれませんので、採用はこの事業の生命線でもあります。

人が増えた場合に、技工所の新設も検討しているところです。

歯科技工の世界も今後、デジタルの普及は止まることなく進んでいくと思っているので、従来のやり方だけでなくそれらにも対応できるような体制を整えていきたいと思っています。

どういう人にきてほしいですか?

条件面でいえば、歯科技工士の資格が必須になります。田野さんの母親と同じように、以前歯科技工士されていて、結婚等でお休みされてた方とか大歓迎ですね。

性格的なところで言えば、素直な人がいいです。

個人的に「いや、」とか「でも、」が口癖の人が苦手なのもありますが、やはり職人仕事なので、経験者がこられた場合に以前の勤務先とうちとでやり方が全然違ったりするんですね。その際、一旦うちのやり方を受け入れてもらえる方がやりやすいんです。

デジタルが普及してきているとのことですが、歯科技工士の仕事してた人でも過去にデジタルを触ってなかった場合でもすぐ覚えられるものでしょうか?

3Dの動かし方だけわかれば出来ると思います。僕も最初は肩凝るくらいだったんですけど、それさえスムーズにできれば、あとの操作は難しくないですね。

昔は「あの形を作るのに何年もかかる」と言われていたものも、今やコピペで出来るといった具合ですので。

リモートワークも今年から法律上認可されたので、家にパソコンがあればデザインして、データを送り返してもらってうちで作る、みたいなことが可能になりました。

3D処理が必要ですが、チームビューアーに繋げばどこでも作業できます。

イメージ的には僕が午前中外に出ている間にデータを作っておいてもらって、昼に帰ってきた時に僕がチェックと最終手直しして製品にする、といった流れが一旦現実的かなと思っています。

デジタル化によって働き方も多様になってきますね。

世の中的には、新しく歯科技工士になる人が年々減少傾向で、新卒ですぐに辞めてしまうといった現状があります。

そこでリモートワークといった働き方が人材の雇用維持に繋がっていくかもしれませんね。

最後に一言お願いします。

屋号のSC LABOAは、「Smile Create Laboratory Art」の略で、「笑顔を創造する」といった事業のビジョンを設けたんですね。

歯に何かしらのストレスやコンプレックスを持っている人が、期待通りに治って喜びを感じてもらえる。

それが歯科技工士としての、何よりのやり甲斐だと僕自身も感じています。

「笑顔を創造する」というこのビジョンに共感して、一緒に働きたいと思ってもらえた人は是非ご連絡ください。

ありがとうございました!

 

 

 

歯科技工士。普段なかなか聞くことがない職業かと思いますが、需要に対して供給が追いついていない職種ということで、若い学生さんには今後のキャリアの参考になる方も多いのではないでしょうか。資格をお持ちで、勤務先をお探しの方は是非、お問い合わせしてみてください。

※この記事は2022年7月22日に取材した情報をもとに作成いたしました。

 

 

事業者名 SC LABOA
代表者名 田村 奉千
669-3131
所在地 兵庫県丹波市山南町谷川4154-29
電話番号 0795-77-2196
FAX 0795-77-2196
メール laboa.h7@gmail.com