移住者インタビュー

Vol.79 / 2021.12.20

社会教育的な側面を持ったミュージアム。「ちっちゃいけれども、魅力いっぱいの博物館」を一緒に創っていく。

菊川裕幸さん

こちらの記事は自身も移住者である丹波市移住定住相談窓口メンバーが行なった、先輩移住者や丹波市に深く関わり活躍されている方のインタビューです。新型コロナウイルス感染拡大防止に配慮し、検温とマスク着用にてインタビューを行っておりますが、写真撮影時のみマスクをはずして撮影させて頂いています。

中央分水界、という言葉をご存知でしょうか?日本の山々に降る雨は川となって北側の日本海、そして南側の太平洋に流れていきますが、そのちょうど中間点、北と南に流れる境目がある場所のことをこう呼びます。丹波市では「水分れ(みわかれ)」と呼ぶ中央分水界は、本州で一番低い位置にあるのが特徴です。そんな水分れにある、氷上回廊水分れフィールドミュージアムで館長補佐を務める菊川裕幸さんにお話を聞きに伺いました。

 

 

前々職では兵庫県の教育職として神戸市や丹波市のお隣、丹波篠山市の農業高校で教諭として働いておられた菊川さん。前職は九州の大学で研究員としてお勤めでしたが、ご縁があり丹波市へ来られ、氷上回廊水分れフィールドミュージアムの立ち上げから現在まで関わっておられます。

 

氷上回廊水分れフィールドミュージアムの立ち上げに関わる「展示改修委員会」という組織がありまして。私も昨年の4月から採用になって、一緒に大学の先生たちと会議で話をしながら立ち上げに関わらせて頂きました。丹波市内の人には、丹波市にこんないいものがあったんだ、っていうことを伝える場所として。市外の方には四季それぞれの魅力を見てもらうことで丹波市の良さを知ってもらえる場所にしたいと思っています。

 

そもそも水分れってなんなのかと、中央分水界は、本州で一番低いからなんなのか?説明が難しいことも多いですよね。だから伝わりやすいように、子どもたちにもわかるように博物館として展示をしています。本州の北から南まで低地帯にあるということですから、人や物の移動ができた。だからこそ生まれた文化や、丹波市らしさを知ってもらえるように内容も作り込んでいきたいと思っています。

 

前身である「水分れ資料館」をリニューアルし、2021年3月8日にオープンした「氷上回廊水分れフィールドミュージアム」。以前は年間2,000人ほどの利用者だった施設が、リニューアルオープンし約3ヶ月(2021年6月時点)で10,000人程の利用者が訪れる場所となりました。

 

 

教育的観点を持たせたミュージアムで、丹波市で暮らす子どもたちが地域をもっと好きになれるように。

 

 

教育職を経験された後、現在氷上回廊水分れフィールドミュージアムで働く菊川さんは、お話を聞いていくと教育的観点を鋭く持たれているように感じます。地元をもっと知って、良いところを理解することで故郷を想う気持ちを育む。そんな未来を想像できる仕掛けがたくさんあります。

 

「水分れって知ってますか」ってアンケートを取ったら、ほとんどの子は知らないと思うんですよ。それって丹波市にとってすごい損失で、まずは社会教育施設の役割として子ども達を育てて、地元を好きになってもらいたいなと思っているんです。

 

 

例えば、みんなで昆虫採集して、見つけた生き物を展示しましょうとか。そういうワークショップを企画したりしています。だから、ミュージアムの展示はまだ100%じゃないんですよ。地元の小学校・中学校の生徒と採りに行って生物を研究して、その中で新しい発見があるかもしれない。さらに、そうして見つかった生き物や事実が博物館に飾られると大人になって自分の子どもに「昔、俺が採ってきた標本なんや」って言えたりとかね。

 

歴史・文化・地形・地理・自然・環境・生き物。「ちっちゃいけれども、魅力いっぱいの博物館」。菊川さんはそう言って笑いながらこれから先の丹波市の氷上回廊水分れミュージアムのあり方を構想します。

 

 

観光的な機能も付加することで、丹波市を知る入り口に

 

 

リニューアル後、団体も訪れ土日では多ければ300人ほどの利用者さんが市外・県外から訪れるそう。博物館だけど観光的な機能も持たせていけると思う、と菊川さんは話します。

 

 

丹波市の地理とか気候とか、住むに当たって大事な情報もたくさん知れるので、一周じっくりみたら丹波市に詳しくなれると思います。例えば観光の拠点として、移住希望の方が最初に来て丹波市のことを知れるように。そんな使い方もして頂けますよね。

 

 

どうしても博物館としては小さいので、中身やワークショップで満足度を上げていく必要があるんです。いつ来ても同じじゃない、いつ来ても何かやっている、という運営でやっていくつもりです。例えば、ナイトミュージアムをやってホタル鑑賞をしたり、すぐ目の前にある「水別れ茶屋」の清水くんとコラボしたり、手探りで自分たちでつくっていく楽しい企画の中で、どれだけここが貴重な場所か、大切なものかを伝えていきます。

 

以前にTURN WAVEの移住者インタビューでも取材した、清水健矢さんとも一緒に地域を盛り上げていっている菊川さん。地域の方や行政、教育関係者だけでなく、地域で活動する若者同士で連携することでも、新しい発想の運営を可能にしていきます。

 

 

 

 

次世代に残していく地域の資源

 

菊川さんは、以前農業高校で教諭としてお勤めの時に竹チップを活用した事業で総理大臣賞を受賞したこともあります。地域で邪魔者になる放置竹林を活用して地域の人が喜ぶ資源に変える。自分たちだけ、教育だけ、仕事だけ、でなく地域にとってどのような役割で価値になるか?も菊川さんが意識するポイントです。

 

僕も博物館勤務経験はないし、(学校の仕事と)畑は違うけど、最終的には次世代に残していく地域の資源をどう伝えていくかということだと思っています。学校もそうですよね、地域で子ども達を育てて、成長して、活躍して、また地域に何かが帰ってくる。博物館もそうだと思うんですよ。社会教育として子ども達が学んだことを大人になって自分の子どもに伝えるとか、この学び自体で育っていくというか。学校では学べない学びなので「丹波市ってこんな面白いところあるんや」とか「丹波市ってこんなことやってるんや」とか。

 

中長期的な話で言うと、地域の活性化・観光のガイダンス機能も持たせているので、ここに来て丹波市を巡って「ああこのカタクリ、あっこにあったやつや」とか「ああ、この動物おったな」とか、そういうことを丹波のフィールドに出て活かして欲しいなって思います。市外から来られている方は交流人口になるだろうし、学術的な面や観光的な面も含めて、複合的に機能させていきたいですね。

 

 

「ちっちゃいけれども、魅力いっぱいの博物館」。その言葉に、丹波市に対する理解と愛情を感じるお話だったなと感じます。山間の土地である丹波市には、小さなコミュニティがいくつもあって、その中で様々な試行錯誤や人の紡いできた文化が形成されています。同時に、移住者の方同士で繋がって企画を練ったり、地元の方と一緒に子ども達へ社会教育の機会を作ったり、愛を持って地域の資源を資源として育てていく。そんな未来も想像させてくれるミュージアム。移住や暮らしを考えて丹波市に興味を持っておられる方がいたら、一度氷上回廊水分れフィールドミュージアムに立ち寄ってみてはいかが?と勧めたくなるインタビューでした。

実は、編集部も農業高校にお勤めの時から知っていた菊川さん。当時からとても前向きで論理的な組み立てで社会と教育、課題の解決までを意識して授業を構築している姿が印象的でした。そんな菊川さんがまた丹波エリアに帰って来て仕掛けているミュージアム。期待どおり、いや期待を超えた構想をお持ちでわくわくさせられました。今後どんな博物館になっていくか、目が離せません。